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マーケティングプランナー・谷村智康の<広告論考>

就職先人気企業ランキングは広告だ! 毎年、同じような大企業が並ぶ理由

jtbshaoku.jpgJTB社屋

気鋭のマーケティングプランナーが考察する「企業と広告」の今。毎年、複数発表される「就職したい企業ランキング」に隠された企業と就活代理店、そしてメディアの意図とは? ランキングはブランド向上のための広告だった!

 今年、就活代理店が発表した就職先人気企業ランキングを見比べてみると、それぞれ独立した5つの調査にも関わらず、ランクインした企業はわずか160社余り。東証一部上場企業は約1,700社だから、わずかその10%相当に集中していることになる。しかも、超有名企業と広告をふんだんに打っているBtoCの企業ばかりだ。先が見えない就職超氷河期ゆえの安定志向にしては、安定先である役所関係はまったく登場せず、BtoBの企業はデンソーや信越化学のような手堅い会社であっても出てこない。反対に、倒産したばかりのJALや、200店舗の閉鎖を発表しているJTBのような「先の見えない企業」がランクインしている。学生がビジネスに疎いにしても、このランキングは、おかしくはないだろうか?

 リクルート社発表の順位と、その他各社のランキングを並べてみると、特定の少数企業がランク入りする一方で、その順位は調査会社によってまちまちであることが分かる。こうした偏りと順位の乱れはどうして発生するのだろうか?

 それは、アンケートの形式による制約からである。自由回答欄を補足として設ける場合もあるが、基本的に、アンケートは列記された企業名から選択する仕組みになっている。就活生にとってこうした調査に協力するメリットはない。だから、調査会社は金券などの副賞をつける。それを目当てにした一部(有効回答率は20%程度)の就活生が、形式に沿って適当にチェックを入れるだけである。その結果、衆院選と同時に行われる最高裁判官の不信任投票でよく言われる例のように、冒頭にある名前にチェックが集中する。

ranking_hikaku1.jpg画像をクリックするとランキング比較表
のPDFデータをダウンロードします。

 しかも、このアンケートは学生が「自分が就活を開始する」と就活会社に登録し「とりあえず始めてみるか」というくらいの気持ちでプレエントリーを行う時期から、実際に個別企業に就活のエントリーを開始する間に行われる。その期間には就活代理店による、各企業の猛烈な求人プロモーションが行われており、その印象が就活生の頭に残っている。また、就活代理店に大金をはたいた企業は、当然、アンケート用紙の目に付きやすい所に社名が載る。だから、ランキングには一部の企業ばかりが集中するし、調査によって順位はまるで違ってくるのである。ランキングはこのように就活代理店の思惑で「作られている」のである。

 では、なぜこのような調査が行われているのだろうか?

 もちろん、学生のためではない。それに、先の回答の態度で分かるように、学生はこうした調査にそもそも冷淡である。就活生のサイトで独自に調査したところ、6割以上が「ランキングを見ていない」と回答した。順位表として用をなしていないようだが、就活代理店にとって学生は金を落とす客ではないから問題はない。

 ランキングを気にしているのは、採用する企業である。広告代理店が消費者の疑心をかきたてて、不要な商品を売るように、就活代理店は「学生の評判」というランキングで採用企業の不安をあおって、より多くの「就活の場」を売っているのである。順位を上げるためのソリューションを提案してフィーを受け取り、広告や就活イベントでのマージンをより多くもらい受けるために、作られた営業ツールが就職先人気企業ランキングなのである。

 もっとも、営業ツールを自社に都合良く作ることは当然である。罪作りなのは、それを報じるメディアである。いくつもの「就職希望先人気ランキング」なる”記事”が掲載されているが、今回チェックしたランキングの中で、記者や編集部といったメディア側が独自調べているものは一つもない。しかも、「東洋経済/ブンナビ(文化放送キャリアパートナーズ)」「AERA/学情ナビ(学情)」「ダイヤモンド/ダイヤモンドビッグ&リード」と、「メディア/ランキングを発表した就活代理店」はきれいな一対一対応をなす。

 大学入試難易度ランキングのように、どの予備校が調査しても、ほぼ結果が変わらないのならともかく、調査会社が複数あり、しかも、業界の当事者発表であり、会社によって順位が著しく変わるにも関わらず、ランキング内では「泡沫」の一社にしかあたらない。最大手のリクルート社の調査が引用されないのは、今ではメディア産業に分類されるライバルだからだろうか。ちなみに、日本経済新聞の場合は、営業部が作成しており、記事体ではあるが「広告特集」と表記されている。他のメディアにこうした注記はないが、記事ではなくタイアップなのだろうか?

 ならば、「週刊朝日の武富士タイアップ記事体広告」同様、報道がしてはいけない犯罪的行為である。そうでないなら、情報源の裏を取っていない記者は怠慢である。

 こうした”記事”が罪作りなのは、各メディアが就活生ではなく、ビジネスパーソンを対象としたメディアであり、”記事”を鵜呑みにした読者が、親として社会人として、就活生に「長いものには巻かれろ」といったアドバイスをしがちなところである。「ゆとり世代」と揶揄されがちだが学生は、就職超氷河期の現状を見据えて企業の大小や知名度で選り好みなどしていない。人材難に悩む中小企業にとって、また、そこに挑もうと考える学生にとってこうした”記事”はマイナスに働くだけである。こうした就職先人気企業ランキングを取り上げた記事の見出しは決まって「大企業指向」だが、さかのぼってこれらのメディアの記事・見出しを調べたが、「中小指向」だった年は一度もない。「大企業指向」なのは、広告費をふんだんに受け取っている就活代理店とメディアなのである。
(文=谷村智康)

*本記事は、「ZAITEN」5月号において「就活」に代わる職業人養成システム「インターンシップ」として、大学生有志が取材・執筆した文章の内、紙幅に治まらなかった部分を中心に筆者が取りまとめたものです。「ZAITEN」の厚意でネットに転載いたしました。

マーケティング・リテラシー―知的消費の技法

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最終更新:2010/05/30 11:00
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