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気鋭の旅情推理作家が迫る”食”のノンフィクション『「食」の匠を追う』

takumi.jpg『「食」の匠(たくみ)を追う
美味の開拓者たちの挑戦』
(祥伝社)

 子どものころ、職人に憧れた人は多いのではないだろうか。大工さんであったり、八百屋さんであったり、ケーキ屋さんであったり、仕事をする職人の姿は幼心にまぶしく見えた。子どもにとって、大人になるということは仕事をすることとほとんど同義であった。

 辞書を引くと、”匠”とは技芸に長じた人、または新しいものを作り出す工夫、アイデアとある。『「食」の匠を追う 美味の開拓者たちの挑戦』(祥伝社)は、紀行作家、料理評論家で推理作家の金久保茂樹氏が、全国津々浦々を食べ歩いて著した、食に関するノンフィクションレポートだ。料理人から仲買人、外食産業、厨房機器開発者、水産研究員と、現代の多様な”食”シーンのプロフェッショナルを網羅し、紹介している。雑誌記者をしていた金久保氏の端的で核心を突いた取材と、味わいのある紀行文は、最高品質で三ツ星級。著者と共に、西へ東へ食べ歩いているような気分に誘ってくれる。巻頭のカラーグラビアでは、きらめくような料理の数々と匠の仕事現場を垣間見ることができる。

 農家、水産業者、運送業者に料理人、サービス業者と、料理が僕らの眼前に並ぶまで、実に多くの人が関わっている。当著で紹介される匠は8人。日本初の「ビストロ(小さなレストラン)」「オーベルジュ(宿泊設備を備えたレストラン)」を創業したフレンチシェフで、伊豆の特産品を使った料理を提供する匠・勝又登氏や、アワビ、イクラ、メカブを盛った「三陸海宝漬」を考案し、年間10数億円を売り上げる「中村屋」の主人・中村勝泰氏など、その道のプロフェッショナルの仕事を、若き日のエピソードも交えながら語っている。他にも、大分は「城下カレイ」の危機を救った水産研究員や、火鍋と羊肉で外食産業を席巻している中国外食チェーンなど、興味深い話は尽きない。

 8人の匠、いずれも技術はもちろん、「美味」という見えないものに賭けるひたむきな情熱が、成功への原動力となっている点に注目したい。そして、金銭でない何か――職人のプライドであったり、自国の文化であったり、郷土や自然を大切にする気持ちであったりと、走り続けていられる理由を持っている。一流の職人の仕事に対する姿勢に、グルメでなくとも思わず舌を鳴らすことだろう。
(文=平野遼)

・金久保茂樹(かなくぼ・しげき)
1947年、東京生まれ。雑誌記者、紀行作家、料理評論家として活躍後、99年『〈龍の道〉(ドラゴンレール)殺人事件』で推理小説界にデビュー。旅情・美食・鉄道トリックの三位一体の興趣で注目を集める。作品は、テレビドラマ化された『みちのく蕎麦街道殺人事件』『伊豆・柳川伝説 雛の殺意』など多数。最新作は、『横浜残照、殺意の米軍基地』。

「食」の匠(たくみ)を追う 美味の開拓者たちの挑戦

ミシュランより読み応えあり。

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最終更新:2010/06/15 18:00
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