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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」

経営者、経済学者、官僚 金融業界の犯罪者たち

■『INSIDE JOB』

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 08年に起こった世界的な金融危機──世界各国では、数百万人もの人々が職だけではなく住居までもを失った。だが、大手金融機関の幹部らは、天文学的な報酬を受け取り続けている。ここに矛盾はないのだろうか? そして、最悪の金融危機を引き起こした犯人は誰なのだろうか? 金融業界や学術界、政治家らへの濃密な取材から、問題点を浮き彫りにするドキュメンタリー映画の注目作。
監督/チャールズ・ファーガソン ナレーション/マット・デイモン ※日本での公開は未定。


 映画『ウォール・ストリート』は、『ウォール街』の23年ぶりの続編だ(ややこしい邦題だなあ、もー)。

『ウォール・ストリート』は、前作でインサイダー取引によって逮捕されたカリスマ株取引人ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)が、2001年に刑務所から出てくる場面から始まる。21世紀になって携帯電話は小さくなったが、ウォール街は巨大化した。デリバティブ、CDO(債務担保証券)、レバレッジ、ヘッジファンド……証券マンは庶民から預かった年金を使ってギャンブルする。ゲッコーは言う。

「今のウォール街に比べたら、私のインサイダー取引なんて駐車違反だよ」

 だが、『~ストリート』を観ていると、だんだんもどかしくなる。ウォール街で08年に何が起こったのか、ドラマでなく本当のことが知りたくなる。

 そこにちょうど金融崩壊のドキュメンタリー『インサイド・ジョブ』が公開された。これは『ウォール・ストリート』と併せて観るべき映画だ。

「インサイド・ジョブ(内部の犯行)」とは、たとえば銀行員が銀行の金を盗むこと。この映画は、08年の金融崩壊はウォール街の連中がグルになってやらかした「犯罪」だと告発する。

 金融崩壊を扱ったドキュメンタリーには、先にマイケル・ムーアの『キャピタリズム/マネーは踊る』があるが、経済に疎いムーアは「資本主義よりも民主主義を」というトンチンカンな主張をして終わってしまう。一方、『インサイド・ジョブ』の監督チャールズ・ファーガソンは政治とビジネスのプロだ。彼は名門MITで政治学の博士号を取り、ホワイトハウスをはじめ公共機関の政策顧問を務めた後、IT会社を起業。その会社はマイクロソフトに1億3300万ドルで買収され、それを資金にファーガソンはドキュメンタリー映画作りを始めた。自らウォール街の大物やエコノミスト、世界各国の政治家にインタビューし、インサイド・ジョブの犯人たちに迫っていく。

 まず最初に名指しされる犯人は当然、投資銀行の重役たちだ。『ウォール・ストリート』で、破綻した投資銀行の会長は失意のあまり自殺する。しかし、リーマン・ブラザーズやAIGでは誰も自殺してないし、損もしていない。リーマンのリチャード・ファルド会長は、バブルの8年間だけで350億円を自分に給料として支払っていた。また、同社に引きずられて破綻したAIGは政府(つまり税金)から17兆円もの援助を受けた直後、重役たちに160億円ものボーナスをばらまいた。

最終更新:2010/12/01 15:30
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