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『孤独のグルメ』原作者・久住昌之インタビュー「店選びは失敗があるから面白いんでしょ」(後編)

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前編はこちらから

──いわゆる美食にはあんまり関心がないんですか?

久住 ないです、全然。結局、育ちなんじゃないですかね。うちは貧しかったし、でも家で何でも作ってたからね。「おふくろの味」ってわけでもないけど、たとえば漬物は絶対漬けてたから。朝ごはんに茄子の漬物が出てくると「夏休み近いな」とか、食べ物で季節の変化を感じたり。わりとそういうのを丁寧に作ってたのかもしれないですね。

 おばあちゃんが面白い人で、「おいしいものは知ってなきゃだめだ」って言ってたんですよ。田舎に行った時にたまたまウニが出てきたんだけど、子どもなんてウニが好きなわけないじゃない? 「うわ、まっずい!気持ち悪い!」って言ったら、「ウニってのはすごくおいしいものだ」って。それの味がわかると他のこういうものも食べれるって言ってたの。だから「ぜいたくはいけないけど、おいしいものの味は知ってたほうがいい」っていう、昔にしては変わった考えの人で。けっこう影響受けてる気がしますね。

 小学校の時、魚が嫌いで。それで給食で嫌いだったのがアジフライだったんだけど、おかずは残しちゃいけなかったから、もう本当に泣きそうな思いで食べ切ったのね。それが大人になっておいしいアジフライ食べたら「なんだよ、俺だまされてた!」って思って。そっち(おいしいほう)を最初に食べてれば、あっち(まずいほう)だって食べれてたんじゃないかと思うよね。おいしいほうを先に食べてれば、「おいしくないなあ」って思いながらも頭の中ではおいしい味のベースができてるから、まあ許せちゃうっていうか。
 
──子どもの頃、嫌いだったものを大人になって好きになるということはよくあることですよね。しかも「だんだん」じゃなくて、「急に」だったりして。

久住 好き嫌いがあるというのは、(嫌いなものを)好きになる余地があって将来に楽しみがあるってことだからね。子どもの頃なんて”ひかりもの”が全然食べられなかったの。コハダとかしめ鯖とか怖いの、メタルで(笑)。それが酒飲むようになって食べてみると、「なんだ、おいしいじゃないか」と思って。そうするとオセロで駒がいっぱいひっくり返されるように、自分の駒がいっぱい増えるっていうかね。だから好き嫌いが多い人を見るとうらやましいよね。俺はもうかなり少なくなっちゃったから。

──逆に、子どもの頃は好んで食べてたけど、大人になって冷静に考えると「実はおいしくなかったのでは?」と思うものもあるんじゃないですか?

久住 そういうのあるよね。駄菓子とか、あんなものよく好きで食べてたよね。あとは……グミとか食べてたからね。

──えっ、グミ?

久住 庭に生えてるほうのグミね。桑の実も食ってたよ。

──桑の実ってうまいんですか?

久住 まずいんじゃない(笑)?

──はははははは!

久住 ちょっとは甘いけどね。そういえば、水木しげるさんが軍隊でラバウルに行った時、現地の人が焼いてくれたタロ芋を食べて、「軍隊の食い物よりうまい!」って言ってたんだけど、20年経って現地に行ったら「ほら、お前の好きなタロ芋だ」っていっぱい出してくれたけど、まずくて食えなかったって(笑)。

──ははははは! でもそういうのはありますよね。それでいくと、今の時代って普通に生活してたら「劇的にまずいもの」ってほとんど出合ないですよね。

久住 今の給食なんておいしいからね。やんなっちゃうよ。今の小学生の給食で人気一位って何だと思います?

──えっ、カレーじゃないんですか?

久住 俺たちはそうだったよね。度肝を抜かれましたよ………バイキングだって。

──ええええええええええ!

久住 一年に一回あるんだって。違うじゃん、ジャンルが。あまりの感覚の違いにびっくりしましたね。俺、『中学生日記』(扶桑社)ってマンガ書いてて、子どもが中学の時、親と先生が給食を食べながら話す会があったから、「取材だ!」と思って出かけたんですよ。そこでやっぱり人気のメニューを出してくれたんだけど、それが「こぎつねごはん」っていうやつで。ごはんに油揚げを煮たのとニンジンとかを混ぜた、要はまぜご飯なんだけど、それがすごいおいしいんだ! でもおいしすぎるとマンガにできないんだよね。おいしいけど面白くないんだよ。「おいしいね、今の子っていいよね」で終わっちゃうじゃない。それよりは昔のまずかった話のほうが面白いからね。

──で、放送中のドラマ『孤独のグルメ』についてですが。実際にご覧になってみて、マンガ版とは違う発見みたいなものはありましたか?

久住 マンガは自分のペースで読めるじゃないですか。だけど映像は向こうのペースに合わせて見ることになる。そこが一番違うところで。マンガはパパっと読んでても、いっぱい情報は得てるんだよね。だけどテレビの場合は見てるとじれったいって感じはあると思うんだよね。「何やってんだ、早く食え」とか。第一話の放送後、制作者に言ったんだけど、「僕は食べ物のマンガを描いてきたからよくわかるんだけど、なかなか食べないとみんなイライラするんですよ」と。

──たしかに最初、食べるまでずいぶん時間かかるなと思いました。

久住 食欲と性欲を置き換えてみればわかる。エロビデオを借りてきて、前置きが長かったら「早くヤれよ!」ってなるよね(笑)。だからそれまでに、なんでもいいから食べるシーンを入れようと。メインの食べものじゃなくてもいいから。

──エロビデオでいうと、ペッティング的な。

久住 イメージシーンだけでは飽きちゃうのと同じだよね。イメージシーンは早送りで飛ばせるけど、テレビは(リアルタイムで見てると)飛ばすことができないからね。

──じゃあ、これからもっとよくなっていくと。

久住 制作者が原作をとても大事にしてくれているドラマですからね。期待していいと思いますよ。
(取材・文=前田隆弘/撮影=オカザキタカオ)

● くすみ•まさゆき
1958年東京生まれ。美学校・絵文字工房で赤瀬川原平に師事する。1981年に美学校の同期生である泉晴紀と組んだ「泉昌之」として、ガロ「夜行」でデビュー。1990年には実弟の久住卓也とのユニット「QBB」で発表した「中学生日記」で第45回文藝春秋漫画賞を受賞。原作者としても活動しており、代表作に谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』、水沢悦子との共著『花のズボラ飯』などがある。

●ドラマ『孤独のグルメ』
個人で輸入雑貨商を営む男・井之頭五郎は商用で日々いろいろな街を訪れる。そして一人、ふと立ち寄った店で食事をする。そこで、まさに言葉で表現できないようなグルメたちに出会うのだった――。
原作:『孤独のグルメ』作・久住昌之、画・谷口ジロー/脚本:田口佳宏、板坂尚/音楽:久住昌之、Pick & Lips(フクムラサトシ 河野文彦)ほか/主演:松重豊
毎週水曜深夜0時43分~放送中
http://www.tv-tokyo.co.jp/kodokunogurume/
※次回放送は2月15日放送

孤独のグルメ 【新装版】

「ほほう、いいじゃないか」

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最終更新:2013/09/09 16:41
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