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「2人のチャンピオン」――お笑い評論家・ラリー遠田の『R-1ぐらんぷり2012』観戦記

cowcowtada.jpg『COWCOWコントライブ 1 』
(よしもとアール・アンド・シー)

 3月20日、ピン芸人日本一を決める『R-1ぐらんぷり2012』が開催された。3,612人の出場者の中から勝ち抜いて優勝を果たしたのはCOWCOW多田健二。得意のギャグを連発していくネタで安定して笑いを取り、優勝の栄冠と賞金500万円を手にした。

 だが、今回の『R-1』では多田以外にもう1人のヒーローが生まれた。それは、決勝の最終決戦で1票差で優勝を逃したスギちゃんである。彼は優勝こそ果たせなかったものの、圧倒的なインパクトで強烈な印象を残し、今大会の台風の目となった。スギちゃんの破壊力は圧倒的だった。彼が披露したのは、自分がいかにワイルドであるかを自慢するという不思議な漫談ネタ。ネタが終わった後、出演者も観客もその場にいた多くの人がスギちゃんのキャラクターの虜になっていた。本来なら公正な立場で進行役を務めなくてはいけないはずの司会の雨上がり決死隊の2人ですら、「~だぜぇ」というスギちゃんの口調を思わず真似していたほどだ。

 スギちゃんは決勝進出が決まったときに号泣し、決勝で最終決戦進出を果たしたときにも泣き、しまいにはCOWCOW多田が優勝した瞬間に多田の涙に思わずもらい泣きまでしていた。その飾らない純朴な人柄も彼の魅力だ。スギちゃんはネタが面白いというだけではなく、その親しみやすいキャラクターで見る者を魅了して、場の空気を完全に支配していた。2本目のネタ中には何度か小さなミスもあったのだが、それも温かく受け入れてもらえるくらいの雰囲気がすでにできあがっていた。準優勝のスギちゃんは、会場の空気をつかんだという点では「もう1人のチャンピオン」と言っても差し支えがないほどの活躍ぶりだった。

 とはいえ、そんなスギちゃんの猛追をギリギリのところで振り切った多田も見事だった。彼が決勝で見せた2本のネタは、いずれも優勝を意識して磨き上げられたプロの芸だった。1本目では、五十音が書かれた箱から球を取り出して、その頭文字で始まるギャグを次々に演じていった。2本目では、くじ引きでお題を選び、そのお題に沿ったギャグを連発。ひとつひとつのギャグのクオリティが高く、それを効果的に聞かせるネタの枠組みもよくできていた。うまくガードを下げさせて、懐に入ったところで威力のあるパンチを連打する。理想的な試合運びで最初から最後まで爆笑を取り続けた彼は、隙のない“王者の戦い”を実践したといえるだろう。

 本人の話によると、くじ引きで引いたギャグを披露していくというフォーマットを作ったのは、相方である山田與志のアドバイスによるものだという。山田は『R-1』の常連であり、これまで4度も決勝の舞台に立ちながら惜しくも優勝を逃していた。多田は相方の助けを借りて、コンビとして雪辱を果たした。これはこれで見事な優勝劇だ。

 多田とスギちゃんをはじめとして、決勝に進んだ12人の芸人はいずれも、クオリティの高いネタでプロとしての誇りを見せつけていた。結果的に多田は記録に残る王者となり、スギちゃんは記憶に残る王者となった。2人のチャンピオンが制した『R-1ぐらんぷり2012』は見応えがあった。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

COWCOWコントライブ 1

おめでとう!

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最終更新:2018/12/07 18:20
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