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森田芳光監督のラストメッセージ『僕達急行 A列車で行こう』

morita_a.jpg(C)2012 『僕達急行』製作委員会

 1980年代の『家族ゲーム』、90年代の『(ハル)』『失楽園』、ゼロ年代の『間宮兄弟』『わたし出すわ』など、時代を切り取る話題作・問題作を撮り続けてきた森田芳光監督。昨年12月、61歳での早すぎる他界が日本中を悲しませた同監督の遺作、『僕達急行 A列車で行こう』が3月24日に封切られる。

 大手デベロッパー、のぞみ地所に勤める若手社員・小町圭(松山ケンイチ)は、列車の車窓から風景を眺めながら音楽を聴くのが大好き。かたや東京下町の町工場、コダマ鉄工所の二代目・小玉健太(瑛太)は、列車の金属部品をマニアックに愛する職人肌。ともに鉄道オタク=“鉄ちゃん”の2人は、ローカル線の車内で出会い、すぐに仲良くなる。一度はコダマ鉄工所の寮に入居した小町だったが、ほどなく九州支社に転勤。失恋し傷心旅行で九州を訪ねた小玉が、小町と出かけた先でやはり鉄道オタクの大手企業社長(ピエール瀧)と知り合ったことから、2人の人生に転機が訪れる。

 鉄道という趣味の世界でつながりを深めていく若者2人を軸に、それぞれの仕事での苦労と成長や、不器用さが微笑ましい恋愛のエピソードなどがユーモラスに語られるハートウォーミングなコメディー。東京近辺と九州でロケを敢行し、合計20路線80モデルにもおよぶ車両が登場するという鉄ちゃん必見の一本なのは間違いないが、けっしてそれだけではない。鉄道好きにもいろいろあって、車両が好きだったり、車窓からの眺めを楽しんだり、模型を収集していたり。作中でも多様な愛好家たちが登場するように、趣味などのテーマでゆるやかな共同体を作っていく、いわゆる「テーマコミュニティー」の可能性と、互いの個性を認め合いながら共存していくことの肯定が、森田監督らしいひょうひょうとした語り口で描かれている。TwitterやFacebookなどのSNSの普及により、テーマコミュニティーでつながることが容易になった現代、そうした若者たちの今どきのつながり方に希望を見出していた森田監督なりの想いが込められているようだ。どうか「鉄道オタクの映画でしょ」などと敬遠せず、森田監督の心温まるラストメッセージをしっかり受け止めていただきたい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『僕達急行 A列車で行こう』作品情報
<http://eiga.com/movie/55815/>

家族ゲーム

名作。

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最終更新:2013/09/06 17:45
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