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“雪かき漫画家”初監督作品『憂恋の花』が「ゆうばりファンタ 2012」でワールドプレミア!!

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 2010年の12月5日、マンガ・アニメの規制を画策する東京都青少年健全育成条例改正案をめぐり、猪瀬直樹東京都副知事がTwitterに書き込んだ「ネトウヨは財政破綻した夕張を助けに行け。雪かきして来い」というつぶやきに呼応した一人が、キャリア20年を数える現役マンガ家の浦嶋嶺至氏だ。

 一表現者としての主張を都政に反映させるべく、作家でもある猪瀬副知事との対論を希望したところ、取材に応じる条件として、財政破綻に苦しむ雪深い夕張市内での雪かきを提示されたのだった。

 そこで浦嶋氏は2011年1月21日に夕張市を訪問し、同市の社会福祉協議会の案内で雪かきを実行。

 さらに、同年2月24日より開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2011」に併せて夕張市を再訪、2度目の雪かきを行い、一躍マスコミの脚光を浴びるようになった。

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 以上の流れが、2011年初頭に巻き起こった“雪かき漫画家”騒動の顛末なのだが、この話題、昨年のマンガ業界を彩るネタの一つとして早々に忘れ去られるものでは決してなかった……。

 帰京後の浦嶋氏は、猪瀬副知事との対論を実現させようと準備を進めていたが、その矢先の3月11日、東日本大震災と原発事故が発生したため、しばし沈黙を余儀なくされた。そんな中、人知れず過去に発表した自作の短編マンガを脚本化し、その後、自らプロダクションを立ち上げて映画化に奔走。映画監督として現場に臨み、7月初旬のクランクインを経て、8月下旬にクランクアップを向かえるに至った。

 そして11月23日、編集を終えた浦嶋氏は、初監督作品となる『憂恋の花』の零号試写を実施。各所から賞賛コメントが浦嶋氏へと届けられる中、ついには猪瀬副知事を表敬訪問するに至った。作家とマンガ家という垣根を越えた一表現者としての対話が実現し、猪瀬副知事からも以下のコメントが寄せられた。

「『憂恋の花』を観ました。僕の知っている風景がいくつかありました。知らないところも知っているような懐かしさのある、しっとりとした風景の映像ですね」

 『憂恋の花』に出演した増田俊樹氏の監督作で、2010年1月に劇場公開された映画『おやすみアンモナイト 貧乏人抹殺篇/貧乏人逆襲篇』も、かっては2008年末の締め切り寸前に「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2009」にエントリーされ、出品が決まった経緯があった。

 そんな縁も手伝って、増田監督と同作の脚本を執筆したジャーナリスト・昼間たかし氏の心強いアドバイスを得た浦嶋氏は、同映画祭の締め切り直前に監督作をエントリー。

 そして、2011年の暮れに初監督作ながら国際映画祭出品というチャンスを掴み、念願の映画監督として、3度目の夕張入りを果たしたのだった。

 以下、駆け足での、2012年の雪かきレポートとなる。

***

 2012年2月23日の早朝、新千歳空港に降り立った“雪かき漫画家”浦嶋氏は、メインキャストである大澤真一郎氏、出演者であり自主映画監督でもある岩崎友彦氏、出演者兼協力プロデューサーの増田俊樹氏、そして、ロフト報道チャンネルのディレクター・石崎俊一氏と共に、映画祭専用のシャトルバスに乗車。真っ白な北の大地を車窓から眺めつつ、車中での打合せは余念なく進行された。

 チェックインした宿泊施設はホテルでなく、廃校を改装した「合宿の宿ひまわり」。修学旅行さながらの大部屋にて、スタッフ、キャストの親交を深めたり、大浴場がほかの映画祭ゲストとの絶好のコミュニケーションの場となるであろうとの思いもあった。身支度を整え、アディーレ会館ゆうばりでの映画祭オープニング・セレモニーに出席し浦嶋は、澤田宏一実行委員長、鈴木直道夕張市長のスピーチに続き、念願の映画監督としてその名が披露された。

 セレモニー後、親交を結ぶ俳優・辻岡正人氏の出演作『くそガキの告白』をスタッフ全員で鑑賞。鑑賞後、同作品の監督・鈴木太一氏、映画評論家の塩田時敏氏との交流を持った浦嶋は、オープニング・パーティーの席上でも、夕張市長に就任した旧知の鈴木直道氏と1年ぶりとなるあいさつを交わし、今後の夕張市の再生への協力を約束した。

 翌24日は早朝から夕張市社会福祉協議会に集合。浦嶋氏自ら雪かきを陣頭指揮するも、豪雪に見舞われた雪の壁を前に悪戦苦闘を強いられた。そんな様子が、ロフト報道チャンネルの石崎ディレクターの手腕によるネット中継にて、克明にレポート配信されている(http://www.ustream.tv/recorded/20652713 )。

 午後からは、いまだソフト化されていない名作『黒部の太陽・特別編』を鑑賞。午前中、雪かきの際に手にしていたようなスコップでは到底歯が立たない鉄壁の黒部峡谷を、男たちが黙々と掘り進んで行く物語に圧倒され、夜半は、浦嶋氏推薦によるブラジル発のホラー映画『ナイト・オブ・ザ・チュパカブラ』に驚かされて夜が更けた。

 そして、『憂恋の花』のワールドプレミアを迎えた25日の朝、メインキャストであるコンタキンテ氏が現地入り。また、『憂恋の花』応援ゲストとして、漫画家の結城らんな氏、さいたま観光大使である実樹香氏、女優の大山貴華氏、芸能プロダクション代表の角川清子氏など、女性陣も続々と現地入り。

 浦嶋氏は本編撮影部の末松祐紀氏、ドキュメンタリー撮影担当の石崎ディレクターと共に吹雪の夕張市街を精力的に歩き回り、倒壊しかけた夕張市美術館に接近を試みるなど、さまざまな実景撮影を実施。17時になり、上映会場となるホテルシューパロ内のライムライトには続々と観客が詰めかけ、満席となった。鈴木直道夕張市長や澤田直矢ディレクターも顔を見せ、無事にワールドプレミア上映が始まったのだが、上映中にすすり泣く観客女性の嗚咽が聞こえたりと確かな手応えの中で終映を迎えた。

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 続いて、ロフト報道チャンネルにて生中継されるトークショーが始まり、猪瀬都副知事の映像コメントがスクリーン上映された。その途端、『憂恋の花』関係者に若干緊張が走ったものの、コンタキンテ氏お得意の暴露ネタトークが飛び出したあたりから雰囲気が一転し、大盛況の内に無事終了。

 その足で、浦嶋氏は映画祭名物の“ストーブパーティー”へと向かった。ここでは、カンパ制で現地の方から皿とお箸を受取り、雪の舞う会場前広場にてホタテ、ジンギスカン、イカ、鹿肉、ホルモン等、焼きたての食材を堪能できるという贅沢な催し。その後、会館ロビーにて勝又悠監督、小栗はるひ監督等と順次交流。

 浦嶋氏は深夜の上映プログラムをハシゴした後、夜更けにホテルマウントレースイ前の屋台村へと流れて、ユニジャパンのスタッフの面々、上原源太監督や『元気屋の戯言』俳優部の皆さん、俳優の林和哉氏等と一つのテーブルにて合同打ち上げを開催し、スタッフ、キャストと共に朝方まで映画の話題で盛り上がった。

 当然のことながら、ここでの浦嶋氏はマンガ家としではなく、映画監督として認識されていた点も付け加えておこう。

 翌26日は、同じくマンガ家で短編を出品したタイム涼介監督を表敬訪問、互いにエールを送りあった。また、旧知のギンティ小林氏とも遭遇するなど、映画祭ならではの実り多き交流を体験した。

 もはや中年と呼ばれるマンガ家が、失意の中で映画という肉体言語に触れ、完成に至った『憂恋の花』。すべての表現者にとって辛く長いトンネルが延々と続く昨今、それでも浦嶋嶺至は作品を生み続ける。

「アジサイの咲く一軒家で、つつましやかな生活を始めた閏と希。一緒にいれば幸せだと思い暮らし始めたふたりだったが、次第に互いの想いがずれてきて……。女性同士の恋愛を透明感のある映像で描く。昨年1月、東京都の表現規制をめぐる騒動で夕張で雪かきをした現役漫画家が、今度はレズビアン映画でゆうばりファンタに凱旋!! 」(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2012 公式カタログ72Pより)

ぬきまん。

浦嶋嶺至作品。

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最終更新:2013/09/19 18:49
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