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直木賞候補作家の最新刊 天涯孤独の男女を描いた『起終点駅 ターミナル』

51EzjIG+roL._SS500_.jpg『起終点駅 ターミナル』(小学館)

 ここ最近、孤独死および孤立死が問題となっている。2012年1月、札幌で起こった40代姉妹孤立死事件を皮切りに、立川市、さいたま市などでも孤独死・孤立死が相次ぎ、各メディアで大きく報じられた。生涯未婚率の上昇、出産率の低下、地域共同体の崩壊――無縁社会の末に待っているのは、上記のような悲しい知らせだ。

 しかし、「孤独=不幸」と簡単に図式化してしまってよいものだろうか。『起終点駅 ターミナル』(小学館)は、02年にオール讀物新人賞を受賞し、11年下半期の直木賞候補となった新進気鋭の作家・桜木紫乃氏が、新たに上梓した短編集だ。妻子と別れ、30年間独り暮らしを続けている弁護士と、被告人女性の交流を描いた表題作「起終点駅 ターミナル」を含め、全6編が収録されている。6編に共通するテーマは「無縁」「孤独」と「北海道」という地域性。行くあてのない人たちの寂しさが、広く寒々とした北海道の風景とマッチして、深い感傷に誘われる。

 第5話「たたかいにやぶれて咲けよ」は、第2話「海鳥の行方」の主人公で、若手新聞記者の山岸里和が、老人ホームで死去した女流歌人・中田ミツを取材し、彼女の晩年を追っていくという物語だ。タイトル「たたかいにやぶれて咲けよ」は中田ミツの詠んだ短歌の上の句で、たたかいは恋愛の意。取材の結果、中田ミツが近藤悟という小説家志望の若い男一緒に暮らし、自身の財産を相続させたという話を聞きつける。恋多き歌人として有名だった中田ミツの最後の恋なのか。近藤はミツとの生活を静かに語り出した……。

「リツさんと僕はふたりだけれどひとりだった。ひとりだけれどふたりだった」(本文より)

 ジェンダーや女性の職業問題などを随所に織り込みながら、自立した女性の力強さや清々しさを感じさせる作品だ。

 6編の主人公たちは皆、一人でありながら、一人の生活を肯定して生きている。『起終点駅 ターミナル』を読めばきっと、ミツや里和のように、前を向いて歩んでいく勇気をもらえることだろう。
(文=平野遼)

・さくらぎ・しの
1965年北海道釧路市生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年、初の単行本『氷平線』が新聞書評等で絶賛される。12年『LOVE LESS(ラブレス)』で第146回直木賞候補。ほかの著書に『風葬』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『硝子の葦』(新潮社)『恋肌』『ワン・モア』(ともに角川書店)など。

最終更新:2012/06/06 15:00
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