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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.240

血縁・地縁が崩壊した現代に是枝監督が問う! 新しい“父性像”の模索ドラマ『そして父になる』

soshitechichininaru01.jpg“新生児取り違え事件”をモチーフにした是枝裕和監督の最新作『そして父になる』。様々な父親像、母親像が登場する。

 父親を家長にした従来の家族制度は、現代社会において完全に破綻してしまっていることを『誰も知らない』(04)の中で描き出した是枝裕和監督。シリアスさを極めた『誰も知らない』の後、是枝監督自身に子どもが生まれたことも影響し、『歩いても 歩いても』(08)や『奇跡』(11)は温かみを感じさせる作風へと変わってきた。とても面倒で、形態は様々だけれど、“家族”という最小単位が機能することで社会が成り立つことが是枝作品から伝わってくる。『歩いても 歩いても』『奇跡』に続いて、家族の在り方を問い直しているのが、今年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞した『そして父になる』だ。崩壊した家族制度の中でもっとも存在感を失ってしまった“父親”を主軸に、是枝監督は新しい時代の新しい家族像を打ち出そうとしている。

 『誰も知らない』は1988年に実際に起きた「西巣鴨四兄妹置き去り事件」をモデルにしていたが、『そして父になる』は1960年代に日本各地で多発した「新生児取り違え事件」を題材にしたもの。当時の日本は看護士の絶対数が不足しており、沐浴中に赤ちゃんが取り違えられる事故が少なくなかった。小学校など就学時の血液検査で取り違えが発覚するが、事実を知った双方の親たちはほぼ全員が血のつながりを重視して、それまで育てた子どもたちを交換するという。交換後は連絡を絶ち、取り違え事件はなかったことにしてしまうそうだ。

 仕事の合間を縫って子育てに取り組んでいた是枝監督は、この事実に興味を抱いた。お腹を痛め、出産後は母乳を与える母親と違って、父親の場合は自分から意識して子どもに向き合わないと親子であることを自覚することができない。父と子がお互いに自分たちは親子であることを認め合う手段は、“血のつながり”なのか、それとも“一緒に過ごした時間”なのか。是枝監督は「取り違え事件」を現代のドラマに置き換えて、観る者に問い掛ける。

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