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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.281

記憶をめぐる“内なる冒険”の果てに見たものは? 夭折した父との再会と自己の再生『ぼくを探しに』

bokuwosagashini01.jpg大ヒット作『アメリ』(01)のクローディー・オサールがプロデュースした『ぼくを探して』。アニメーション作家シルヴァン・ショメにとって初の実写映画だ。

 今さら説明するまでもなく、アニメーションとは網膜に映った残像を活かした映像表現である。1秒間に12~15フレームほどの微妙に異なる静止画を連続して見ることで、静止画の中に描かれた物体があたかも生きているかのような錯覚を覚える。劇場アニメ『ベルヴィル・ランデブー』(02)や『イリュージョニスト』(10)で知られるシルヴァン・ショメ監督にとって、初の実写映画となる『ぼくを探して』(原題『ATTILA MARCEL』)はアニメーション出身監督らしく、記憶の中に焼き付いている“残像”をテーマにしたものだ。幼い頃に亡くなった肉親の残像をめぐり、ちょっと切なく、でもハートウォーミングな物語が繰り広げられる。

 『ベルヴィル・ランデブー』では自転車と犬とおばあちゃんへの愛情を目いっぱいに注ぎ、『イリュージョニスト』では喜劇王ジャック・タチのお蔵入りとなっていた遺稿を鮮やかに蘇らせたショメ監督。自分が大好きなものをアニメーション化することで命を吹き込んでしまう、現代の魔術師だ。『デリカテッセン』(91)や『アメリ』(01)などのヒット作を放ったプロデューサーのクローディー・オサールにその才能を見込まれ、オムニバス映画『パリ、ジュテーム』(06)には短編『エッフェル塔』で参加。実写作品でも非凡さを発揮し、オサールのプロデュースで初の長編実写に挑むことになった。プルーストの大河私小説『失われた時を求めて』をヒントにした『ぼくを探して』は、ショメ監督らしいこだわりのビジュアルが溢れている。お菓子のシューケットを頬張りながらピアノ練習に励む主人公ポール、チェリーの酒漬けに目がない伯母さん姉妹、ウクレレ好きなマダム・プルースト、剥製師になりたがっている医者……。ショメ監督のアニメーション世界からそのまま抜け出してきたかのような、クセの強いキャラクターたちがそろう。

 ショメ監督らしい、細部まで作り込んだビジュアルを眺めているだけでも充分楽しい『ぼくを探して』だが、ショメ監督を特別な映像作家にしているのは、失われしものを現代に甦らせてしまう奇術師ぶりだろう。主人公ポール(ギョーム・グイ)は幼い頃に両親を事故で失ってしまった。伯母さん姉妹(ベルナデット・ラフォン、エレーヌ・ヴァンサン)が親代わりとなって育てたが、事故のショックでポールは言葉をひと言もしゃべらないまま大人になってしまう。両親の思い出といえば、母親は美しく優しかったという記憶があるものの、父親は野蛮でいつも不機嫌そうだった印象しかない。自分は父親から愛されることなく生まれてきたのか。そんな想いを抱くポールは誰にも心を開くことなく、ピアノの練習に明け暮れていた。伯母さん姉妹が望んでいるピアノコンクールに優勝して、世界一のピアニストになること。それがポールの唯一の生き甲斐だった。

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