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根なし草ライター・安宿緑の「平壌でムーンウォーク」

中国人出稼ぎ労働者の中に、なぜか北朝鮮の政府高官が……合縁奇縁な中国高速バスの旅

PB110660.JPG平壌にある猪木事務所の代理人(高官にあたる)・李さん(本文とは関係ありません)。

 初めまして、安宿緑と申します。北朝鮮について、時々記事や日記を書いています。

 朝鮮半島北部(現在の“北朝鮮”)出身の父親を持ついわゆる「在日2世」ですが、父がだいぶ年寄りになって生まれたので世代的には3~4世です。父親は戦時中「結婚生活に嫌気が差した」「外界を見てみたい」とかなんとかで村を飛び出し、放浪の末、日本に漂着。高齢になって日本で母親(韓国人)と再婚し、気づいたらまたどこかに行ってしまいました。というわけで、国籍・韓国(出生時は朝鮮籍)、本籍地・朝鮮民主主義人民共和国、出生地・日本という根なし草です。

 北朝鮮には、90年代前半から今日まで、6回訪問しています。今後も、年1回は訪朝したいと思っています。最初に言っておきますが、私はノンポリです。一部では「朝鮮労働党宣伝部員」や「工作員」、そしてなぜか「サブカル」呼ばわりする人間もいるようですが……(笑)。

 訪朝するたび、得難い経験をしてきたと思っていますが、日朝問題に関しては私などよりはるかに造詣の深い記者や先生方がいらっしゃいますし、やはりいろいろと「朝鮮新報」にはかないません(笑)。なので当連載では、私の視点から、日朝間の狭間をリポートしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 さて、皆さんにとっては意外かもしれませんが、訪朝の醍醐味は「人との出会い」だったりします。

 昨年の今頃、北朝鮮からの帰路での出来事です。平壌から列車で中国入りし、さらにそこから高速バスで地方の空港まで移動する途中でした。

 乗車券に記載された座席番号をたどると、席の隣に一人の男性が座っていました。ゴルバチョフ風の重厚な黒コートをまとっており、出稼ぎ労働者と思われる周りの中国人乗客からかなり浮いていたため、直感しました。

「この人は中国人ではなさそうだ」

 そればかりでなく、私は男性の手帳に朝鮮語で殴り書きがされているのを見逃しませんでした。男性もチラチラと私を見まわしていましたが、ポケットからのぞかせていた「韓国パスポート」を見て、あからさまに「うわ、面倒くせぇ」という表情をしたため、北朝鮮の人であると確信したのです。

 男性はおそらくこちらを無視しようと考えていたでしょうが、私は中国人だらけの車中で、唯一、言葉が通じそうな人物が横にいることを心強く感じました。どのタイミングで声をかけるか思案していると、1時間ほどたって男性の携帯電話が鳴りました。男性がまごうことなき北朝鮮の発音でしゃべり倒して電話を切ったとき、私は思い切って声をかけました。

「朝鮮の方ですか?」

 男性は、やや引き気味に答えました。

「そうだけど……君とは違う」

私「なぜですか?」
男性「南の旅券を持ってる」

 予想通りの反応でしたが、私も「ですよねー」と引き下がる気はありませんでした。

私「いいえ、違いません」

 私は北朝鮮で撮影した写真を一枚一枚見せながら、訪朝の目的と行動内容を粘り強く説明し始めました。15分ほどしゃべり続けたところでようやく警戒を解いてくれたのか、彼は意外にも簡単に素性を話してくれました。身なりからして身分の高い方であると思っていましたが、案の定、政府の重要なポジションにいる方でした。

 私は内心、ガッツポーズが止まりませんでした。

「(超ラッキーッ!!!!!)」

 こんなVIPと、小汚い高速バスで隣同士になるとは……!

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