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芸妓、ラブホ、殺人事件……男女の“欲望”が渦巻く『迷宮の花街 渋谷円山町』

51gqZWluuGL.jpg『迷宮の花街 渋谷円山町』(宝島社)

 本橋信宏氏の前作、『東京最後の異界 鶯谷』(宝島社)は、奇妙な街を追ったノンフィクションだった。博物館や寛永寺などが集まる文化エリアから坂を下ると、そこにはうらぶれたラブホテルやデリヘル事務所が密集する。21世紀にありながら、時代の波を寄せ付けない鶯谷の現実を描き出した本書は、高く評価された。そして、この『異界』シリーズの第2作目として選ばれた土地は、渋谷駅から徒歩10分。道玄坂から神泉にかけて広がる「円山町」という地域だ。

 ラブホテルが密集し、風俗の案内所がギラギラした照明を浴びせかける円山町には、ライブハウス「Shibuya O-EAST」や「club asia」「club atom」、映画館「ユーロスペース」が立地する。かと思えば、昭和元年創業の「名曲喫茶ライオン」や、昭和26年創業の老舗インド料理店「ムルギー」などの有名店があり、アクセスのよさからサイバーエージェントをはじめとする企業がオフィスを構えるエリアでもある(実は、「サイゾー」の編集部もここからほど近い道玄坂にある)。時間によって、場所によって、そして足を運ぶ人によって、円山町は玉虫色にその姿を変えていく。

 『迷宮の花街 渋谷円山町』(宝島社)は、この不思議な繁華街の歴史を追ったノンフィクションだ。いや、歴史というよりも、「記憶」という言葉のほうが正確かもしれない。100年にわたって、この街はさまざまな変遷を遂げてきた。

 江戸時代までは火葬場が設置され、雑木林の広がる丘だった円山町は、明治から大正にかけて料亭と置屋、そして待合の3つがそろった「三業地」に指定されると急速に発展していく。大正10年には、芸妓置屋137戸、芸妓402人、待合96軒を数える都内でも有数の花街へと成長していった。

 映画監督の森田芳光は、生まれ育ったこの街を舞台に、デビュー作『の・ようなもの』を撮った。生家のすぐ横にあったトルコ風呂の記憶が、秋吉久美子演じる新たなトルコ嬢の姿として共感を呼んだ。また、『円山・花町・母の町』を歌った三善英史は、「母になれても 妻にはなれず」という歌詞を、円山町で芸者として生計を立てていた母を思い浮かべながら歌い、NHK紅白歌合戦にも出場を果たした。芸者とトルコ風呂、かつてそこは退廃的な物語が似合う街だったのだ。

 そのイメージが一変するのが1980年代後半から。バブル経済に向かう狂乱の中で、芸者に代わり、立ち並ぶラブホテルが円山町の代名詞となっていく。現在、70軒あまりのラブホテルが林立する円山町では、固く腕を組んだカップルたちが、昼夜を問わずその路地へと吸い込まれていく。また、カラオケやゲームなどのアミューズメントが充実し、和風やアジアンなどさまざまなコンセプトで内装がしつらえられた設備は外国人の興味も集め、いまや「Love Hotel Hill」として旅行ガイドに紹介されるほどとなっている。

 さらに、男たちの欲望を刺激する風俗店も数多い。普通のデリヘルだけでなく、電マ練習場、母乳デリヘル、デブ専門デリヘルなど、男たちのアブノーマルな性癖も、この街は受け入れている。カップルのありきたりなセックスだけではなく、不倫、乱交、スワッピング、SM、フェチ、さまざまな性欲が渦巻き、大量の精液を垂れ流す町、それが円山町の姿となった。

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