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まさか!? なんでここが都心の幼稚園なんだろう? カメラマンに泥水をかけてくる園児たちを追った『子どもは風をえがく』

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 長編ドキュメンタリー映画とは、膨大な取材量によってはじめて価値を生むものである。

 どんなに美しく、力強い映像を幾度となく撮影しようとも、その背後にやむなくカットされた大量のフィルムがなければ、薄っぺらさは透けて見えてしまうのではないだろうか?

 ラピュタ阿佐ヶ谷での封切り公開を先月好評の中で終え、現在も全国で巡回上映中の『子どもは風をえがく』(監督:筒井勝彦)は、これでもかという映像取材の成果が強靭に焼き付けられた作品である。

 この作品は、杉並の住宅街にある広大な屋敷林を持つ幼稚園・中瀬幼稚園の一年を取材したドキュメンタリー映画だ。

 開園50周年を迎えるこの中瀬幼稚園は、園と保護者が共同で敷地内の樹木や自然を保護しながら、子どもたちが駆け回れる空間を長期に渡って維持してきた。都会の喧騒の中ににありながらも、自然に満ちた空間でのびのびとした日常を過ごす子どもたちの姿を、四季を通じてカメラは余すところなく追っていく。作品は115分に編集されてはいるものの、撮影期間は一年間にも及んだ。

 筒井監督の揺るぎない意志を本作から感じるのは、子どもたちを撮影するカメラのレンズが必死に子どもたちの目線にまで下がろうと奮闘しているところだ。これは文章でも同様だが、作品を制作するにあたって、まず求められるのは視線をどこに置くかである。

 どんな取材対象であっても、俯瞰した視点では紋切型の分析は可能でも人間の本能的な部分までは捉えられない。

 映像作品では、より露骨に取材対象者との距離感が鑑賞する者に見透かされてしまう。筒井監督は、そのような部分を深く理解しているからこそ、精一杯目線を下げて子どもたちの表情や動きを余すところなく追いかける。

 腰をかがめながら、走り回る子どもたちを縦横無尽に撮影する撮影部も並大抵の体力では務まらない。

 作中ではカメラマンが走り回る子どもたちに突然、土や泥水をかけられているのが確認できる。それでも、カメラの焦点は取材対象である子どもたちを追い続けてやまない。

 16ミリフィルムで撮影された昭和のドキュメンタリー映画などを鑑賞する度に、何らかの作為や配慮がどこかしこに入りこんでしまっていることに気付かざるを得ない。取材対象者が不自然なほど背筋がピンとしていたり、話し方も妙に丁寧だったり、露骨にカメラのレンズを意識しているのがわかる。撮影機材がよりコンパクトになった現代では、以前ほど取材対象者は取材する側やカメラを意識しないようにはなったものの、それでも作為めいた言動は記録されてしまう。

 けれども、中瀬幼稚園の子どもたちはカメラのレンズなど一切気にする素振りも見せず、逆に園の闖入者とでも呼ぶべきカメラマンに天衣無縫な行動で反応するという、とてつもなく予測不能なドキュメンタリー映画となっている。

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