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世界を変えるか!? 史上最年少ノーベル賞授賞者マララの半生に迫った『わたしはマララ』

Main_HNMM_006_HNMM_00087(C) Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 今週取り上げる最新映画は、山田洋次監督が吉永小百合と二宮和也を主演に迎えて描くファンタジックなドラマと、ノーベル平和賞を最年少で受賞したパキスタンの少女を追ったドキュメンタリー。静かな語り口に込めた反戦の願いや、言葉の力で暴力に立ち向かう少女の勇気が、師走の心に温かな感動をもたらす力作たちだ。

 『母と暮せば』(12月12日公開)は、劇作家の井上ひさしが広島を舞台にした戯曲『父と暮せば』と対になる物語として温めていたアイデアを、山田洋次監督が自ら脚本も手がけて映画化。1948年8月9日、長崎で助産婦をして暮らす伸子(吉永小百合)の前に、3年前に原爆で死んだはずの息子・浩二(二宮和也)が現れる。2人は思い出話に花を咲かせながらも、一番の関心は浩二の恋人だった町子(黒木華)のこと。町子の幸せを願いながらも、諦めきれない浩二と、そんな息子を優しくなだめる伸子。2人が心を通わせる大切な時間は永遠に続くようにみえたが……。


 山田監督初のファンタジー作品で、幽霊である浩二が透けて消える視覚効果などを違和感なく取り入れた。吉永と二宮の濃密な対話劇の部分と自然につながり、戦争に命を奪われた者と遺された者それぞれの感情に、観客も思わず引き込まれる。山田監督・吉永小百合主演作『母べえ』(2008)にも起用された浅野忠信のほか、小林稔侍、橋爪功ら山田組の常連も、短い出番ながら印象的な演技で脇を固めた。原爆で大切な人を大勢失った市民の日常と秘めた思いを描くことで、反戦の願いを語り継ぐスタッフ・キャストの意志が確かに伝わってくる。

 『わたしはマララ』(公開中)は、ノーベル平和賞を史上最年少で受賞した17歳の少女マララを、『不都合な真実』(07)のデイビス・グッゲンハイム監督が追ったドキュメンタリー。パキスタンのスワート渓谷で小さな学校を運営する父と文字の読めない母の長女として生まれたマララは、幼い頃から遊び場代わりに父の学校へ通い、教育の重要性と意見を主張することの大切さを学んでいた。タリバンがスワートを支配し、暴力と破壊、女子教育禁止などで住民を苦しめるようになると、マララはブログやドキュメンタリー番組で窮状を訴える。これによりタリバンに命を狙われる身となったマララは、15歳の時に銃撃され、頭に大怪我を負う。奇跡的に一命を取りとめた彼女は、以前にもまして活発な活動を再開する。

 かつてイギリスに攻め込まれたアフガニスタンの兵士たちを鼓舞し、前線に立って銃弾に倒れた少女マラライにちなんで父が名付けたという。そうした冒頭のエピソードや、両親の出会い、マララの少女時代などがアニメーションで描かれ、実写映像のパートを効果的に補っている。父親の影響も大きいとはいえ、教育普及に献身するマララ自身の強い意志と、暴力に屈しない勇気に感嘆させられる。現在放映中の大河ドラマ『花燃ゆ』と朝ドラ『あさが来た』(共にNHK)も、女性の教育と地位向上に取り組んだヒロインが描かれており、タイムリーなテーマでもある。女性が勇気づけられる内容だが、男性にとっても大いに見るべき価値がある傑作ドキュメンタリーだ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『母と暮せば』作品情報
<http://eiga.com/movie/81537/>

『わたしはマララ』作品情報
<http://eiga.com/movie/82689/>

最終更新:2015/12/11 23:00
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