日刊サイゾー トップ > その他 > ウーマン・ウェジー  > 不妊治療6年間600万円の末たどり着いた「里親」という選択 漫画家・古泉智浩さん

不妊治療6年間600万円の末たどり着いた「里親」という選択 漫画家・古泉智浩さん

 晩婚化にともない不妊症の患者数が増加している。平成23年に国立社会保障・人口問題研究所が取りまとめた「第14回出生動向基本調査」では、不妊の検査や治療を経験したことがある夫婦は16.4%にのぼると公表。しかし、全ての人が成功するわけではなく、成功率は治療開始が35歳から39歳で40%、40歳では10%にも満たないともいわれている。いつか子どもを持ちたい――その漠然とした願いが成就する確率は、年齢とともに低下するのが現実だ。

 そうした中、不妊治療の成果がなく、実子ではない子どもを育てるという選択をする人もいる。漫画家の古泉智浩さんもその1人。11月15日に発売された著書『うちの子になりなよ』(イースト・プレス)では、自然妊娠がかなわず不妊治療を6年間続けた夫婦が里親を選択するまでの過程、そして実際に里子を迎えてから育児に奔走する様子をユーモアあふれる漫画を交えながら赤裸々に綴っている。この本の主人公である古泉さんに、里親の現実について話を聞いた。

――里親制度についてはどこでお知りになったのでしょうか?

古泉智浩さん(以下、古泉) 行政の情報誌に里親募集の告知が出ていたのを見つけたのが最初です。里親になるまでの6年間、夫婦でタイミング法や人工授精、体外受精、顕微受精など、さまざまな不妊治療を試し、流産も経験しましたが、子どもを授かることができませんでした。お金も600万円ほどかかりましたし、ゴールが見えなくて本当にドロ沼ですよね。どこかで線を引かなくてはと思っていたんですが、不妊治療の最後の方は、自分の子どもじゃなくても子どもが欲しくなっていました。そこで、妻に里子を預かってみるのはどうかと切り出してみたんです。妻は自分の子どもを欲しがっていて、あまり乗り気ではなかったのですが、僕の強い希望を受け入れるかたちで納得してくれました。

――どのような過程を経て、里親になられたのでしょうか?

古泉 里親の研修を毎月1回、トータル半年間受けました。その研修では里親になるにあたっての心構えについての講義や、「里親会」と呼ばれる里親コミュニティの先輩方による経験談、映画の視聴などがありました。里親の中には養子を希望する「養子縁組里親」の人たちもいるのですが、僕たちは条件をつけたら子どもが来るのが遅くなると思い、「養育里親」を希望していましたので、児童施設での研修もありました。

――研修を受けられて、大変だなと思われたことはありますか?

古泉 やはり大きい子を預かるのは大変だなと思いましたね。「愛着障害」といって、幼小期に親の愛情に恵まれなかった子が、里親に対して、どれくらい自分を愛して受け入れてくれるか、いろいろな行動で試してくる「親試し」をすることがあるらしいのです。ずっと腕に噛みついてきたり、物を投げたりするそうなのですが、正直怖いなと思いましたね。

――研修の後、すぐに里子を引き受けられたのでしょうか?

古泉 研修を終えると自宅調査があり、児童相談所の職員の方が自宅の様子を見に来たり、家の資産や所得などについての書類を提出しました。それらを経て認定を待ちました。いま1歳○カ月になる里子を預かっていますが、ご両親が都合でNICU(新生児集中治療管理室)にいるその子を引き取れなくなり、調査からすぐ我が家に委託の連絡が来ました。

――実子として養子に迎える特別養子縁組ではなく、里親制度を希望されたのはなぜですか?

古泉 スピード感ですね。本当に一日でも早く子どもを育てたかったんです。養子縁組里親を選ぶと、厳しい条件を課せられることになるので、時間がかかってしまうのではないかと思いました。里親はいずれ返さなくてはいけないという不安が常にあります。すぐに預かることができるなら、養子縁組里親にすると思います。

――そこまで急いで子どもが欲しかった理由とは?

古泉 僕はこれまで自分の好き勝手ばかりやって生きてきたのですが、中年期を迎えてそうしていると、なんだか虚しくて死にたくなります。自分が誰の役にも立っていないみたいな。それがなぜ子どもが欲しいことと関係するかというと、書籍に詳しく書いていますが、僕には今の妻ではなく、元婚約者の女性との間に子どもがいるんです。もう中学生になる女の子なのですが、これまで3回しか会ったことがありません。事情があり一緒には暮らせないのですが、彼女に会ったときの感覚が忘れられません。「誰かを守りたい」「愛したい」という気持ちが行き場をなくして、自分にのしかかってきたんだと思います。

――里子の赤ちゃんが来てから、その気持ちは変わりましたか?

古泉 たとえるなら、世界がモノクロからカラーになったような、とんでもない変わりようです。毎日とても楽しく生活しています。いいことずくめですね。年を重ねたせいか、物事になかなか感動できなかったのですが、子どもと暮らして、子どもの表情やしぐさがこんなにも感動するんだということに驚いています。あと、里親制度は子どもの都合をメインに行政がマッチングするので、こちらの希望どおりにはいかないのですが、僕は本当にラッキーだったと思います。最初に会ったときにかわいいと思いましたから。運命的なものを感じましたね。

――もし実親の生活環境が整って、児童相談所から子どもを戻してほしいと言われたらどうしますか?

古泉 泣いて暮らすしかないですよね(笑)。妻は発狂すると言っています。本音をいえば、いずれは特別養子縁組したいと思っています。そのためには、実親の許諾をもらった上で、家庭裁判所の認可も必要です。最近、養子縁組を希望した里親と、それに反対する実親の間で裁判があったのですが、里親の要求が退けられて実親に戻されることになったようです。ただ、そのケースは里子になって1年と実蹟が短かったようなのでそりゃそうだろと。子どもに物心がつかない段階では仕方ない。だから、うちは子どもに「パパ」「ママ」って呼ばせて、子どもが離れたくないと思ってくれるように、絆をしっかり作っていきたいです。

12
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

水原解雇に間に合わなかった週刊誌スクープ

今週の注目記事・1「水原一平“賭博解雇”『疑...…
写真
イチオシ記事

さや香、今年の『M-1』への出場を示唆

 21日、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「賞レース2本目やっちまった芸人」の完結編が放送された。この企画は、『M-1グランプリ』(同)、『キ...…
写真