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構成作家・相沢直の“スナオなドラマ考”

誰もが生きづらさを抱える世の中で――思い出はなんのためにあるのか?『いつ恋』第9話

itsukoi0316.jpgフジテレビ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』

 ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の第9話では、数多くの思い出が描かれている。あるいは、思い出が人の人生を決定付ける、その様が描かれているといってもいいだろう。練(高良健吾)が働く運送会社の社長は、練にこう語りかける。

「ふるさとっていうのはさ、思い出のことなんじゃない? そう思えば帰る場所なんていくらでもあるし、これからもできるってこと」

 かつて音(有村架純)が幼かったころ、彼女の母親(満島ひかり)は恋とは何かと問われ、「おうちもなくなって、お仕事もなくなって、どこも行くとこなくなった人の、帰る場所」と答えていた。だから、恋と思い出は似ている。人は大切な恋を忘れることはできないし、思い出から逃れて生きることもかなわない。それは私たちが生き続ける限り、胸の奥に隠れている。

 そして第9話では、これまでの8話を見てきた視聴者の思い出も喚起される。たとえば、木穂子(高畑充希)は久しぶりに再会した練に「私も相変わらず楽しくやってるから」と言葉をかけ、音には「私は、もともとめんどくさい女だもん」と告げる。このセリフの中の「相変わらず」、そして「もともと」という言葉が、木穂子の5年前、そしてまた作品では描かれなかった5年という長さを物語っている。練や音だけでなく、木穂子もまた大切な思い出とともに今を生きているのだ。

 晴太(坂口健太郎)が小夏(森川葵)を連れていった芝居で公演している劇団まつぼっくりは、かつて小夏がモデルに憧れていたころに路上でチラシを配っていた、あの劇団だ。運送会社の社長が練に餞別を渡し「こじの菓子折りは、来月分から引いとくからね」と冗談を言う場面を見れば、練に相談もせず給料から天引きして貯金をしていた昔を思い出すし、5年前にはウソばかりついていた先輩の佐引(高橋一生)は「俺がウソついたことあるか?」と練に言う。彼ら彼女らがこれまでに語った言葉や、その一挙手一投足全てが、私たち視聴者の思い出として同期している。

 今回、自分の思い出と向き合うことになった、というか向き合わざるを得なくなったのが朝陽(西島隆弘)だ。かつて雑誌で働いていたころに取材で会った弁護士と再会し、朝陽はこう告げられる。

「間違ってもいい。失敗してもいい。ウソのない生き方をしましょう。君はいつもそう言っていた」

 社長である父親の右腕となり、弱者を切り捨てる今の朝陽にとっては、聞きたくない言葉だろう。だがその言葉は、朝陽がいくら忘れたくても、言葉を聞いた者の思い出として残っている。そして、その言葉はいつか自分に帰ってくる。だが、朝陽は、自らの思い出と決別して生きることを決断する。今の仕事を続けると音に告げ、「これが今の僕が選んだ一番幸せな現実です。恋から始まらなくていい。ここで生きよう。一緒に生きよう」と語りかけるその言葉は、音が練に惹かれていることを朝陽が知っているから、あまりにも切なく響く。

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