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構成作家・相沢直の“スナオなドラマ考”

連続ドラマにとって“最終回”とは何か?『ど根性ガエル』最終話

dokonjogaeru0921.jpg日本テレビ『ど根性ガエル』

 ドラマ『ど根性ガエル』は全10話の作品であり、当然ながら第10話が最終回となる。そして『ど根性ガエル』が最終回のテーマに選んだのは、終わることについてだ。前回ピョン吉(声・満島ひかり)と別れてしまったひろし(松山ケンイチ)は、口ではそう言わないが、少しずつ大人になろうと努力している。母ちゃん(薬師丸ひろ子)に起こされる前に起きたり、ご飯をよそってもらったときに感謝を述べるなど、その変化は小さいがここまで一切変わることのなかったひろしにとっては大きいものだ。

 こういった最終回の形というのも、当然あり得るし、むしろ自然なものだといっていいだろう。主人公が唯一無二の仲間と去って、自分だけの人生を歩き始める。それはきっと「いい話」になるはずだ。だが、我々の愛するひろしは「いい話」が何より苦手な男だった。「でも、やっぱおかしい」と気付き、不満を口にする。

「なんで俺が大人になるためにピョン吉がいなくなんなきゃいけねえんだよ。ピョン吉は俺のために生きてたっていうのか? そりゃ失礼ってもんだ、ピョン吉っていう生き物に対してよ」

 このひろしの面倒くささが『ど根性ガエル』の最終回を特殊なものにする。面倒くささ。あるいは、ひろしは嫌がるかもしれないが、優しさといってもいい。ピョン吉に限らず、ひろしは、というか『ど根性ガエル』は、ある人物がドラマを進めるためだけに配置されることを許さない。すべての人物はその人生を生きていて、役割はその後についてくる。誰もが自分の人生を選び取ることを許されているというのが『ど根性ガエル』の世界だからだ。

「つまんねえだろうが、このまま終わりなんてよ」

 ひろしのこの言葉が、『ど根性ガエル』の最終回に、ひとりの新たな登場人物を生む。それは、ひろしとよく似た男(松山ケンイチ/二役)だ。言わばもう一人のひろしが町に現れ、いくつかの事件を起こし、そして結果として彼が黄色いアマガエルの上に倒れ込むことで、ピョン吉が復活する。

 ひろしとよく似た男、ひろし2号(と、ピョン吉が呼んでいる)は、外見だけでなく境遇もひろしとよく似ている。ただひとつだけひろしと違うのは、ピョン吉と出会わなかったという点だ。だからどこか弱々しく、ひろしのように無駄な自信や空元気は持ち合わせていない。ピョン吉と出会うことがなかったため、ど根性を持っていないもうひとりのひろしを叱りつけるのは、ヒロインの京子ちゃん(前田敦子)だ。

「あんたにね、いや、今の時代に足りないのは、ど根性だよ! わかったか!」

 京子ちゃんのこのセリフでもわかるように、ひろし2号が何を象徴しているかは明らかだ。彼はただの、ひろしによく似た男ではない。我々視聴者を象徴し、具現化した存在がひろし2号だ。我々はひろし2号という登場人物の体を借りて『ど根性ガエル』の世界へと迷い込んでいる。

『ど根性ガエル』とは、カエルがシャツの中で生きるという現実にはあり得ない設定の物語だ。だから、ひろしだけが成長するという結末では、実は我々視聴者にとっては、なんの解決にもなっていない。「結局、俺たちにはピョン吉がいないから」と、よその話になってしまう。だから我々を代表したひろし2号が語られなくてはならない。ピョン吉と出会うことのなかった我々視聴者をも、『ど根性ガエル』は強引にその物語の中に引きずり込むのだ。

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