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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.393

北朝鮮版“ゴジラ”は歪んだ映画愛が生み出した!『将軍様、あなたのために映画を撮ります』

shogunsama011983年10月。金正日を挟んで左がシン・サンオク監督、右が女優のチェ・ウニ。金正日の要請を受け、北朝鮮で映画を製作することに。

 庵野秀明総監督のこだわりが細部にまで宿った『シン・ゴジラ』にはリピーターが続出しているが、北朝鮮版ゴジラと呼ばれる金正日プロデュース映画『プルガサリ 伝説の怪獣』(85)はご覧になっただろうか。こちらは世界屈指の映画オタクとして知られた金正日の狂おしいまでの映画愛、ゴジラをはじめとする日本の特撮映画への偏愛ぶりがひしひしと伝わってくる怪作。北朝鮮映画への物珍しさもあって、1998年に日本でも単館系で劇場公開されている。ドキュメンタリー映画『将軍様、あなたのために映画を撮ります』(原題『The Lovers and the Despot』)は韓国の人気監督シン・サンオクとそのパートナーだった女優チェ・ウニが北朝鮮に拉致され、金正日のために『プルガサリ』を含む17本もの映画を製作することになる奇々怪々な事件を掘り起こしていく。

 北朝鮮を建国した金日成の息子として独裁体制を築き上げた金正日。独特なヘアスタイルと共に権力者としての特権を駆使して、古今東西さまざまな映画をコレクションしたシネフィルとしても有名だった。彼にとって映画とは独裁者の立場を強固にするためのプロパガンダの手段であり、また独裁者としてのコドクさを癒すためのものでもあった。金正日は『男はつらいよ』(69)や『ゴジラ』(54)の大ファンだったと言われている。誰にも理解されることなく街を破壊し尽くすゴジラや愛を求めて各地をさまようフーテンの寅さんに、心を許せる友達がいなかった金正日は過剰に感情移入していたに違いない。誰よりも映画を観る目は肥えていた金正日だったが、肝心の北朝鮮には面白い映画がまるでない。誇り高き将軍様にとって、これはゆゆしき問題だった。そこで閃いたアイデアが恐ろしい。自国にいい監督がいないのなら、お隣りの韓国から連れてこようと。北の将軍様の独善的な映画愛が、韓国きっての人気監督と女優との運命を大きく狂わせていく。

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