ファブリーズMEN「汗臭ッ」CMが男性に向ける暴力性と、受け手側の認識
消臭剤・芳香剤のファブリーズのCMを、「男性蔑視ではないか」と問題視する声がある。
「エレベータートラップ」と題されたそのCMは、エレベーターの中でスーツを着た20代後半と思われる男性ひとりを取り囲む十数名ほどの女性が、男性に顔を近づけて匂いを嗅ぎ「くさっくさっ」「なんか酸っぱい」「焼肉食ったでしょ」「そのあとタバコ吸ったな」「これで得意先に行くんですか」と眉をしかめながら詰問する、というものだ。
先日サントリーが公開した缶ビール『頂』のPR動画「絶頂うまい出張」が、女性蔑視だとして批判が殺到したばかりだが(詳しくは「サントリー『頂』PR動画、宮城の壇蜜お色気観光動画も、「セクシーな女で男を釣る」わかってなさ」を参照)、ファブリーズのCMが注目されるきっかけとなったのも、「『頂』のPR動画は女性蔑視であると批判されるにもかかわらず、ファブリーズのCMは男性蔑視だとはならないのか」というツイートだった。
資生堂インテグレートや鹿児島県志布志市の「うな子」など、自治体や企業によるPR動画、CMが批判に晒されることが多々ある。こうした広告は女性蔑視、性暴力的な描写が問題視されるものであり、自治体や企業、社会を批判する人びとと、「たいしたものではない」などと批判を唾棄する人びとの対立に発展する、という構造がお決まりのパターンだった。
これを「女性差別に憤る女性」vs「女性差別に鈍感な男性」と見るのは物事を単純化しすぎだろう。一方で今回のファブリーズのCMは、ちょっとこれまでの“炎上”CMとは異なる展開をしている。ファブリーズ販売元であるP&Gや、CMを制作した広告代理店などに「男性蔑視/差別だ」と批判する声が送られるのではなく、なぜか「どうしてフェミニストはこのCMを問題視しないのか」と、批判の矛先が「女性」のみに向かっていたのだ。きっかけとなったツイート、そして紐づけられたユーザーのツイートでも「女は我慢できないから(いろんなCMにケチをつける)」「日本は女尊男卑」といった言葉が数多く見られる。なぜなのだろうか。
女性に男性蔑視問題まで担わせる?
このCMが描いた女性たちの行為はハラスメントであり、またCM自体が「男性は臭い」というステレオタイプを強調している。「女性から嫌われれば、男は(モテたいから)気にするはず」という価値観に基づいた、コンプレックス商法、つまり脅迫系商法のようにすら見える。そういった意味で、ファブリーズのCMが社会的に問題視されることは何らおかしくないと思う。
しかしそのことについて、「女性」が、P&Gや広告代理店に抗議の声を上げるのを待ち、抗議がなされないと見ると「女性」に怒りをぶつける……という構造は、いくらなんでも他人任せが過ぎる。
本当に問題だと思っているのであれば、『頂』や資生堂インテグレート、うな子を批判した人たちのように、自分たちで声をあげればいい。単純に不快感を示すだけでもよいだろうし、冷静になにが問題なのかを指摘すれば「問題ない」と感じている人たちを説得することも出来るかもしれない。
また、実のところ大半の男性がこのCMの表現を不快だとも問題とも感じていないのであれば、それは男性全体にとって非常に不幸なことだ。「エレベーターで女性に囲まれた状態で、匂いを嗅がれ、眉をしかめられ、非難されることは問題ない」と、その暴力性を容認することになってしまうかもしれないからだ。
あらゆるハラスメントや性暴力は、決して男性が被害者にならないというわけではない。そして誰が被害者であれ、被害が軽くみられていいというわけでもない。男性が被害となるケースについては徐々に社会問題として認識されるようになり、事実、今年6月に改正された刑法では、「強姦罪」を「強制性交等罪」と名称を変更し、さらにこれまでの「加害者は男性で、被害者は女性」という性別の規定がなくなっている。男性被害者も確実に存在するのだ。
あのCMを問題だと思う男性がいまするべきは、女性を叩いて満足することではなく、自分たちで批判をし、どんなCMなら望ましいのかを考えることだろう。
最後に、ファブリーズのCMが問題であったとしても、それがすなわち日本社会が女尊男卑であるというわけでもなければ、女性差別・女性蔑視、性差別がないというわけでもないことは申し添えたい。また、女性蔑視を失くすことがすなわち男性蔑視を強化するというものでもない。性差別を失くすという目的は、性別を超えて共有できるもののはずだ。
(wezzy編集部)
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