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2歳男児はなぜ死亡したか 真っ向対立した検察側・被告側の主張/殺人シッター公判

 2014年3月に埼玉県富士見市で発生したベビーシッターによる2歳男児殺害事件。逮捕された物袋(もって)勇治は同月14日、山田龍琥(りく)君(2)とその弟を預かり、龍琥君を殺害したとして殺人罪に問われている。しかし物袋が問われている罪はこれだけではなく、多くの乳幼児に対する児童ポルノ禁止法違反や強制わいせつ等でも起訴されていた。昨年6月に横浜地裁で開かれていた物袋に対する裁判員裁判の様子を、連続しリポートしていく。

▼第一回:『殺人シッター』と呼ばれた男の長い起訴状

 初公判の罪状認否が終わったのが11時10分。すでに開廷から1時間10分が過ぎていた。休廷を挟み、全体の事件の冒頭陳述が行われる。事件が多いため、その後はさらに個々の事件に分けて、そのたびに冒頭陳述を行い、審理に入るというスタイルがとられた。

 事件全体の検察側冒頭陳述は次のようなものだった。

「被告人は保育士の資格がないが、平成24年3月から横浜市の保育園で補助的な仕事を行なっていた。平成24年11月ごろ、ベビーシッターの仲介サイトである『シッターズネット』に登録した。当時は横浜の実家で、母らと乳幼児を預かっていた。平成24年11月25日から平成25年8月25日にかけて、C、D、E、F、G、H、Iらに対し、その陰茎や陰部を露出させ肢体を撮影するという強制わいせつ、児童ポルノ禁止法違反の行為に及んだ。いずれも生後4カ月~5歳であり、D、I以外は全て男の子であった。

 A、Bの母親はシッターズネットを利用し平成25年9月に被告人と知り合った。Aらの母と被告人はメールでやり取りをし、同年10月2日に契約をし、その日にBを預かった。以降、A、B母から子供らを何度か預かっていた。母親から預かった際、平成25年10月23日、被告人はAの下半身を裸にし撮影したほか、10月27日には全裸にして陰茎を露出させその肢体を撮影した。

 平成25年11月以降、被告人は埼玉県内で一人暮らしを始めた。A君らの母と被告人は、平成26年2月、保育料の支払いでトラブルになった。以後、A君らの母親は、被告人にA君らを預けるのをやめたが、被告人は別人を装い、別のメールアドレスで母親に接触した。

 平成26年3月14日、被告人は事情を知らない第三者を介し、A君B君を誘拐し支配下においた。そして被告人は3月15日ごろ、A君に強制わいせつの行為に及び、さらにA君を殺害した。3月16日から17日にかけ、被告人はB君にミルクを与えず、低血糖症に陥らせた。B君は誘拐発生時、生後8カ月で、保護責任者遺棄致傷時は生後9カ月だった」

 以前の事件でも記した通り、A君とは山田龍琥君である。さてこれに対する弁護側の冒頭陳述では、罪状認否と同様に、一連の強制わいせつ、児童ポルノ禁止法違反について、強制わいせつを否認すると主張。C君への強制わいせつ致傷についても「わいせつな目的はなくわざと怪我をおわせたわけではない」と主張した。龍琥君とB君へのわいせつ目的誘拐については、わいせつ目的はなかったと主張したうえで「誘拐する意思が存在しない。故意はなく、A君B君の母親は被告人に騙されてはいなかった」と述べた。さらに龍琥君への殺人についても「殺人行為は行なっていない」と全てを否認し、B君への保護責任者遺棄致傷も「生存に必要な行為を行なっていた」と主張した。

「お子さんが亡くなっている事件もありどれも大変痛ましいが、児童ポルノ禁止法違反以外、否認します」

と弁護人は最後にこう宣言した。

 間髪入れず、公判前整理手続の結果や本裁判の争点などが裁判長から読み上げられ、引き続き、龍琥君に対する強制わいせつ、殺人についての審理に入る。ここでも検察側、弁護側、双方から冒頭陳述が行われた。それぞれが何を主張し何を立証するかをここで明らかにするのである。先ほどの全体の冒頭陳述よりも一層突っ込んだ内容となる。

 検察官冒頭陳述は次のようなものだった。公判では龍琥君のことはアルファベットで呼ばれているためそのまま記す。

「検察官は被告人が3月15日頃、A君の陰茎を麻ひもで縛り包皮をむりに剥き、口陰したことを立証する。さらに被告人が同日ごろ殺意をもってA君の鼻と口を塞ぎ窒息死させたことを立証する。A君の遺体を解剖した医師の証人尋問で明らかにする。

 殺人についての大きな争点は、A君の死因は何かということ。遺体の顔、首、頭の写真のほか、医師の証言により、死因は鼻腔閉鎖による窒息死であると明らかにする」

 これは否認事件であり、被告人は特に、龍琥君に対する殺人罪については死に至る行為すらしていないと主張しているのであるから、それぞれの冒頭陳述の内容は真逆になってくる。弁護人の冒頭陳述が始まった。

「事件の真相は事故です。A君は風呂で被告人の不注意保育がきっかけで溺れ、不適切な救命活動で生き返りを期待し、A君にさまざまな刺激を加える中で不幸にも亡くなってしまいました。被告人が殺したと検察側は主張していますが全くの誤解です。被告人のPCやケータイに子供の裸の写真が多数残っていた。これを見た検察官らが被告人を極悪非道なシッターだと誤解したのです。

 乳幼児の適切なケアのため、体調やちょっとした変化も見逃さない気遣い、集中力が欠かせない。子供がどんな行動を取るか念頭に置き、注意を最大限に傾けることが保育者に求められるが、被告人には通常大人が有しているはずの注意力が欠けていました。思い込みで物事をすすめることもしばしばあったのです。

 A君とB君を預かった2日目、平成26年3月15日の夜、被告人はB君をリビングに寝かせ、A君と風呂に入りました。浴槽にはA君の腹と胸の中間まで湯がはられていました。A君を浴槽に残し、自分はそこから出て髪の毛を洗っていたのですが、ふとA君に目をやると浴槽の橋につかまっていたはずのA君が湯船に倒れていました。被告人は急いでA君を引き上げ浴室の床にA君の体を置き、胸や腹を手で押して水を吐かせようとしました。しかし吐かないのでもっと強い力を…と足でA君の胸や腹を踏みました。するとA君の口から水と食べたものが出てきました。被告人は浴槽の蓋の上にA君を横たえ心臓マッサージと人工呼吸を行なったのです。

 A君はまもなく呼吸を始め心臓の鼓動も確認しました。ほっとして被告人は部屋に戻り服を着て再び浴槽へ向かったら、A君の呼吸は止まっていました。

 A君が死んだことで茫然自失となった被告人は、何かの間違いでは、A君の体に刺激を与えたら生き返るのでは、と、被告人はA君の腹を踏んだりチンチンをなめたりといったことを繰り返しましたが、息を吹き返すことはありませんでした。

 争点の一つに、死因は何かということがありますが、被告人は一環して『A君は浴槽で溺れて救命したあとに死んだ』と主張しています。そうであればA君は溺死だと考えるのが自然です。顔の皮膚のはがれや出血の痕跡はA君が溺れた後の不適切な救命の結果なのです。

 殺人は最もやってはいけない行為です。被告人にはA君を殺害するどんな動機があったでしょう。A君B君を預かったのは、未払いの保育料を回収するためのきっかけ作りでした」

 当時傍聴している時も感じたが、弁護側の冒頭陳述はなかなか厳しい。この主張は通らないだろう、という意味の「厳しい」だ。救命行為で陰茎を舐め、胸を踏む……まがりなりにもベビーシッターとして他人のお子さんを預かってお金をもらっていたのであるから、救命措置についてもある程度の知識は持っていてしかるべきであろう。

 またベビーシッターとしての仕事に意欲ややりがいを感じていたのであればなおさら、保育士の資格がなくても、そこは自発的に勉強していてもおかしくないところだ。言ってみれば物袋被告はシッターとしての資質に欠けるのにそれを補う努力をすることなくお子さんを預かる業務を続けていた。そしてそれは何のためだったのか? お金か、それともお金以外の大きな目的があったのではないか、そんな推察をしてしまう冒頭陳述であった。そしてまた、お金目的という可能性については、のちの審理で明らかになるのだが、シッター代金がかなり安価であったことから、その可能性も薄いと思わざるを得なかった。

 この日の午後は、龍琥君の遺体を解剖した医師が証人出廷し、その死因について詳細に証言した。殺人の公判では解剖医が証人出廷することは珍しくない。証言の詳細は省くが、要約すると「龍琥君の遺体の所見から、死因は鼻と口を塞がれて殺された窒息死であり、肺に水はなかったので溺死はありえない」とのことである。

 第2回公判、第3回公判では龍琥君とB君へのわいせつ誘拐、B君への保護責任者遺棄致傷についての審理が行われた。この物袋被告の公判は、毎回、傍聴希望者多数のため、傍聴券抽選となった。そのため、全ては傍聴できていない。次に傍聴できたのは第3回公判であった。

▼第一回:『殺人シッター』と呼ばれた男の長い起訴状

最終更新:2017/07/22 07:15
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