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2020年東京五輪に並々ならぬ熱意をかける椎名林檎、彼女の誇る「日本」とは何なのか

 椎名林檎(38)が7月24日付の朝日新聞にて、3年後に控える2020年東京オリンピックに向けて「日本人がどのようにあるべきか」を熱く語っている。

▼媚びないおもてなしを 椎名林檎さんが思う東京五輪

 昨年のリオデジャネイロ五輪閉会式でのフラッグハンドオーバーセレモニー(五輪旗の引継ぎ式。“安倍マリオ”の登場が話題になった)に、演出・音楽監督として参加した椎名林檎。2020年東京五輪での開閉会式に対しても、並々ならぬ気合が入っているようだ。開閉会式で、日本が他国を凌駕するような見事なパフォーマンスをするために、日本国民全員が参加・協力したら良いのではないか、と訴えている。

「日本の津々浦々、『全員が組織委員会の委員だ』というくらいの、『2回目の余裕』をお見せできたらいいんじゃないか」
「日本の場合、『カリスマの力に頼る』のは合わないんじゃないかとも思います。(中略)市井の知恵が結集したものの方が日本の良さが出るはず」
「地域それぞれの気候とか環境の違う場所でしか、発想しえないことがあちこちにあって、全部入っているものであってほしい。品質の高さより、クラフトの手触り、手間ひまかけた仕事が見える方が、個人的には好みかな。それこそが、きっとほかの国にできないことだから。その作業のいきさつ自体が『お国自慢』になるんじゃないかしら」

 また、2020年の東京五輪招致には、海外からの「東日本大震災による打撃を修復しなさい」というメッセージがあると捉え、「つまり、誇りを取り戻すということですよね。大きな打撃を受けた国だからこそ選んでいただいた、というのも自覚したうえで、私たちがまず誇りを取り戻して、おもてなししましょう、と」と椎名は語る。五輪招致に否定的な意見があるのは承知のうえで、「でも五輪が来ることが決まっちゃったんだったら、もう国内で争っている場合ではありませんし、むしろ足掛かりにして行かねばもったいない。だから、いっそ国民全員が組織委員会。そう考えるのが、和を重んじる日本らしいし、今回はなおさら、と私は思っています。取り急ぎは、国内全メディア、全企業が、今の日本のために仲良く取り組んでくださることを切に祈っています」。

 椎名林檎は前々から、東京五輪の組織委員会に任せることへの危機感を訴えていた。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の理事には秋元康が名を連ねているが、椎名はニューアルバムのプロモーションに関するwebメディアのインタビューで「いちばん気がかりなのが東京オリンピック」と言及し、「開会式の演出の内容がおっかなくて仕方ないでしょう?」「J-POPと呼ばれるものを作っていい立場にあるその視点から、絶対に回避せねばならない方向性はどういうものか、毎日考えてます」と憂慮。

 2014年11月放送の『SONGS』(NHK総合)で秋元と同じく同組織委員会理事を務める蜷川実花、演出家の野田秀樹と東京五輪について議論をかわした際にも、「とにかく、日本が恥をかかないように。外から見えてる日本カルチャーとのギャップを相殺して、ゼロ地点に」「日本が恥をかかないように日本らしく。お茶の間で見てる人もみんな(恥ずかしくないように)」と熱弁した椎名林檎。蜷川が「ゲイシャとフジヤマとアニメ、それ以外のことってほとんどの(海外の)人たちには伝わってないと見て間違いない。日本独特の新たな美意識ってあるじゃない? ポップカルチャーの足して足して足して猥雑なガラパゴス的なkawaii文化、それと同時に極限までミニマルな文化もある、両極を持ち合わせてる」と日本文化について具体的にあげれば、「その両方がどれほど素晴らしいかは必ず入れたい」「花火とお花の活け方、それだけは無言で自慢していい」と椎名も具体案を出す。

 そのうえで「オリンピックには開催国の文化を入れなきゃいけないという規約がある」がゆえに、歌舞伎役者、ゆるキャラ、盆踊りなどゴチャゴチャてんこ盛りになり美意識が希薄な「アチャー」演出を防ぐために、「リーダー決めましょう、トップ決めましょう。予算のつけかたも交渉できるプロデューサー的な存在を」と提言。実際はイチクリエイターでありながらも椎名自身がそのリーダーに立ちたいのかもしれない。こうした一連の提言、および今回の朝日新聞での発言からも、椎名林檎が2020東京五輪に並々ならぬ思い入れを持っていることは確かだ。

日本の誇りとは?

 ここまで熱を上げる椎名林檎が総合監督を務めれば、開会式の演出は「恥ずかしくないもの」に仕上がるのかもしれない。しかし彼女が言う“日本の誇り”や“日本らしさ”には、少なからぬ疑問を覚える。

 前出の朝日新聞掲載インタビューで、椎名は昨年のセレモニーでの手ごたえを振り返り、「日本の力」についてこのように言う。

「私の感じる日本の力の内訳は、辛抱強さ、探究心、身体能力。健康な心身に宿る創意工夫。例えば私たちが誇れる電車やバスの運行ダイヤの正確さをはじめとする『お待たせしない』精神。江戸前ですから。ササッと。(中略)忍者のコスチュームを着たキャラクターを出すことなく、『忍法のような日本の技』を見せたいと思ったんです。それらを表現したのが、秒針にBPM(1分あたりのビートの数)を合わせた曲でつなぐ演出、そして時空を超えるマリオです」

 椎名林檎の言う“日本の力の内訳”とは、よく“国民性”として語られがちなもの、そして“日本のおもてなし文化”のような意味合いであろう。引継ぎ式での演出は、ジャズやテクノを中心とした楽曲、パフォーマンス、AR演出などスタイリッシュなものだった。そこに上記のような「日本の力」が意図されていたとは思いもよらなかった。辛抱強さを美徳とするからには、日本の力の内訳には、“空気を読む”とか“我慢”とか“苦労”も含まれるかもしれない。

 確かに電車もバスも時刻表に正確で、あらゆるサービス業は“親切・丁寧が当たり前”なのが日本だ。混んでいようがいまいが“その時可能な最短スピード”で、料理が運ばれる、レジが打たれる、医療サービスが受けられる。まさにお客様を『お待たせしない精神』で社会が回っている。だが、彼女の誇る“日本の力の内訳”が、例外なく必ずしも日本の魅力であり美徳であり底力であるかと言えば、甚だ疑問だ。度を超えれば、長時間労働や過労死や体罰やハラスメントにつながりかねず、実際、日本では今(というかずっと以前からあったのだろうが)、そういった問題が噴出している。無条件に肯定し美徳とみなしてよいものではないはずだ。彼女が見ている“和を重んじる日本”には、こうした諸問題が存在しないのだろうか。

 折りしも今年3月、建設会社の新卒社員として新国立競技場地盤改良工事に従事していた23歳の男性が失踪・自殺するという事件が起き、遺族が上野労働基準監督署に労災認定を申請。代理人弁護士が7月20日に厚生労働省で記者会見をしたばかりだ。新国立競技場の建設は東京五輪に向け急ピッチで進められているが、そもそも設計段階から計画が変更され工事開始が予定より遅れたことや、重機が予定通り揃わず工期が遅れ、現場が異常と呼べるほどの過重労働になっていると明かされている。亡くなった男性の自殺直前1カ月の時間外労働は211時間56分に及んでいたという。国家事業の現場で、このようなことが起こり、命が失われていることは到底看過できない。

 『SONGS』でも椎名はやはり「日本の誇り」「日本らしく」と繰り返していた。また、2014年6月に発売された楽曲『NIPPON』も、同年に開催されたサッカーW杯のテーマソングとして椎名自ら書き下ろした作品だったのだが、歌詞の<万歳! 万歳! 日本晴れ><いざ出陣><噫また不意に接近している淡い死の匂い>などといった、戦地への出征や神風特攻隊を連想させるフレーズに、彼女のナショナリズムが色濃く表れているように思う。<混じり気のない気高い青>といった純血主義を意味しているかのようなフレーズも物議を醸した。

 彼女が見ている“日本”とは、一体どこにある国なのだろうか。今ここにある日本は、もっと複雑で、多様で、揺らいでいる。その現実を認めたうえでの“和”を表現してこそ、「日本が恥をかかない」オリンピックになるのではないだろうか。

最終更新:2017/07/26 07:15
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