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【wezzy】

精神科医ゆうきゆうの『もしも「性欲」がなくなったら、こんな世界になります』が定義する「男性の性欲」とは?

 CMやPR動画の表現をめぐって度々「炎上」騒動が巻き起っているここ最近。炎上の起爆剤(問題視される表現)の大半が、“性”にまつわるものだ。つい先日、精神科医のゆうきゆうが「ゆうきゆうの心理学ステーション」にてUPしたマンガ「もし世界から性欲がなくなったら。」も、絶賛炎上中と称して差し支えないだろう。

 学校の教室らしき場所、ニヤニヤしながらスマホでエロサイトを閲覧する男子に対し、嫌悪感を抱いた女子が「性欲なんかなくなっちゃえばいいのにー!」と嘆く。でもね、もし本当に性欲がなくなったらこんな風になるんだよ……と、“性欲がなくなった世界”が描かれていく4ページのマンガである。1ページ目のこの設定からして、男性の性欲に悪印象を抱く女性に向けたメッセージであると思われる。

 いわく、世界から性欲がなくなると、男性は女性との性欲を一切望まなくなり、性にとって女性は“男友達”と一切変わらない存在になるため、女性は不利益を被ることになるうえ、社会的にも大きな損失が出る、と<論理的(ロジカル)に>示す。

・男性は、女性とホテルに泊まらなくなって、
・男性は、女性を夜景が見えるロマンチックバーに連れていかなくなって、安い居酒屋に行くようになって、
・男性は、女性に外食代のワリカンを求めるようになって、
・男性は、女性に高いプレゼントを渡さなくなって、
・男性は、女性の話にオチを求めるようになって、
・男性は、女性に一切チヤホヤせず、逆にズケズケ言うようになって、

 その結果、「高級ホテル・高級バー・高級レストラン・高級ブランドショップは大半が潰れ消費は一気に落ち込み また男女間に恋愛感情が生まれることも激減しさらに少子化が加速し日本経済は危機に陥った」。ラストシーンでは、「性欲がなくなった場合論理的に考えるとほぼ確実にこのような世界になるがそれを君たちは希望するわけだね?」と女子たちに問いかけ、女子たちが「私たちが悪かったです…」と考えを改める。

 早い話が、女性に対する脅しだ。男性にとって“性欲”はありとあらゆる物事(消費やコミュニケーション)に対する原動力そのものであるゆえ、男性から性欲が消滅すると女性は男性から何もしてもらえなくなり色々困ったこと(少子化や経済危機)になる、という一面的なものの見方に基づいた脅迫といえる。あくまでマジョリティの異性愛に特化しているのも非常に大きな問題だ。

 男性が女性に向ける好意的な感情はすべて性欲に基づいたものであるかのように描かれており、女性は男性の性欲ゆえに“良い思い”をしている、という視点は、JKビジネスやら援助交際やらを「女(児童)が私利私欲のために男(成人)を利用している」と認識する人々と共通するだろう。

 そもそも“性”や“性欲”や“恋愛”って、そんなに単純な話なのか。このマンガの内容に賛同する男性は、自分のパートナーや身近にいる女性から「性欲だけで生きているヤツ」と見なされても一向にかまわないのだろうか。また、「そうだよ男性の性欲があるから私たちは楽して生きられるんだよ」と納得する女性は実際どれほどいるだろう。女性が男性に経済的に依存することなく生活できる基盤があれば、食事を奢られたりプレゼントをもらったり宿泊代を全額負担してもらったりという“良い思い”をそこまで求めることもなくなりはしないだろうか?

 つまりこれは、現状存在する男女の社会的な権力勾配を完全にスルーして、「円滑な男女関係とは、男性の性欲によってもたらされている」と断じているに過ぎない。女性としてこの言説に乗っかることは、既存の権力勾配を受け入れることになってしまうと思う。

それが「性欲」なのか?

 性欲がなくなった未来の地獄絵図として登場する“少子化が加速”というフレーズも、視野の狭さを感じた。男性の性欲消失によって男女間の恋愛が成立しにくくなり少子化が進むという未来予想だが、性欲の結果としてではなく、夫婦の冷静かつ合理的な家族計画に基づいて子供を産み育てる世界も考えられる。あるいはかつてのように、恋愛結婚ではなく、当人の意志を無視した縁結びにより結婚、家や国のために子孫繁栄の義務を負い、性欲などないのにも関わらず男性は無理矢理女性を抱かなければならないという未来も想像可能だ。精子を機械的に搾り出し、人工的に受精卵を作って女性たちだけで子供を産み育てる社会もあり得る。

 男性の性欲がなくなると、女性は不利益を被るだろうか。男は/女は、といちいち性別で分けてしまいたくもないが、不利益を被る女性もいるだろうし、逆にメリットを得る女性もいるだろう。もっと言えば、不利益といえる側面もあるかもしれないが、そうでない側面もある。たとえばメリットとしては、男性の性欲に基づいた加害を受けることがなくなる。一方で、メリット・デメリットのどちらにもなり得るのが、性欲のみで繋がっていた関係を築けなくなることだ。

 いずれにしろ、性欲の消失が現実的ではない以上、このような仮定に準じた議論をしても意味があるとは思えない。それよりも、こうした言説の気軽な拡散をいちいち批判し、止めていくことが重要である。

 男性の性欲それ自体を否定はしないし、女性が「性欲のない生き物」なわけでも勿論なく、女性にも性欲や欲望がある。「性欲=悪」でないことは大前提であるが、男女ともに他者から向けられる欲望にNOと言う権利を所有する。気が進まないならば、いかなる場合であれNOと言っていいのに、このマンガが訴えているのは、男性への理解・受容・我慢だ。

 さらに、このようなマンガによって、「男性の性欲」が、身勝手極まりない性質のものとして描かれ認識されてしまうことで、「アンチ性欲」とも言うべき嫌悪感も同時に広まっていく。ここで描かれているものは本当に「性欲」で括ってよいものなのか? こうした「自分が性的に満足したいがために、相手に奉仕する」態度が「性欲」?

 ゆうき氏は8月18日、自身のTwitterアカウントでも「もし世界から性欲がなくなったら。」のURLを添付した上で『もしも「性欲」がなくなったら、こんな世界になります。』とツイートしている。このツイートの反響は大きく、8月22の時点でリツイートが約2万6千件といいね!が約2万8千件。多くの人の目に触れたのは間違いないが、女性は男性の性欲を我慢すべきという認識を植え付けられた人もいるかもしれない。「女性は男性の性欲を理解し受容しろ、不快なことがあってもある程度は我慢しろよ」というメッセージが今以上に浸透していくことを、私は憂慮する。

最終更新:2017/08/23 07:15
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