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子どもへの配慮とは? コンビニ「成人雑誌コーナー」の表紙を<隠すか、さらすか>だけで議論しても埒があかない

 千葉県千葉市は8~9月にかけて、コンビニで陳列されている成人向け雑誌(=条例で一般誌と分けて陳列するよう指定されている雑誌)をフィルムで包み表紙を見えないようにする取り組み(陳列対策)のモデル事業を実施しているが、コンビニ側の同意を得られないなど、難航しているという。

 陳列対策は、子どもへの配慮、さらには2020年東京五輪・パラリンピックに際してのイメージ向上策の一環として提案され、17年度予算案では、対策費用として約39万円(フィルム購入費など)が充てられた。千葉市の熊谷俊人市長は現状の販売方法を「国際的な感覚に照らして疑問を持たれかねない。既に一定の配慮はされていると思うが十分ではない」と見ている。5月に行われた千葉市民対象のアンケートでは、650人中487人が陳列対策に「賛成」と回答するなど、千葉市民の賛同はそれなりに得られていたようだ。しかし、セブンイレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスはこのフィルム包装を拒否している。

 同様の対策を行う自治体は他にもある。千葉市が参考にしたとされる大阪府堺市も、昨年3月、「有害図書類を青少年に見せない環境づくりに関する協定」をファミリーマートと締結した。濃い緑色のビニールカバーを対象雑誌にかけた状態で販売するというものだが、しかしこちらも、実施店舗は市内80店舗中12店舗にとどまっている。

 堺市に対しては、昨年、日本雑誌協会と日本書籍出版協会が反対する姿勢を見せ、ひと悶着あった。両協会は、堺市に対して「(協定は)表現の自由に抵触するのではないか」などと記した公開質問状を送付したが、堺市は「問題は発生しない」と回答。拮抗した状態のまま、昨年4月、両協会は堺市に協会解除を求める声明を発表した。

 両協会の公開質問状には、『図書類が「有害図書類」であるか否かの判断は、誰が、いつ行うのでしょう。また、販売する各店舗では、どのようにそれを知ることができるのでしょうか?』とあり、これに堺市は、『大手コンビニストア各店舗は、入荷の時点で、既に各出版社が、2点留め等の処置を施している雑誌を、成人向け雑誌のコーナーに区分していると伺っております。本取組では、この区分陳列される雑誌に対して包装をお願いするものです』と回答している。しかし、堺市のいう“各出版社が、2点留め等の処置を施している雑誌”と、有害図書類とは、必ずしもイコールではない。というのも、2点留め等はあくまでも出版社側が自主規制で行っているものであり、2点留めの雑誌がすなわち有害図書類に該当するとは限らず、その逆もある。そのため、堺市の協定基準では、有害図書類外の書籍の表現の自由を侵害する可能性があり、だとすれば条例を逸脱しているのではないか? というわけだ。

 確かに近所のコンビニに行くと、成人雑誌コーナーだけではなく、女性向けファッション誌も付録の有無にかかわらず2点留めされているものは多い。そもそも2点留めは販売店にとっては立ち読み阻止効果を持つものでもあるだろう。ただし、堺市の『各出版社が、2点留め等の処置を施している雑誌を、成人向け雑誌のコーナーに区分していると伺っております』という言い分から読み取るに、対象は“2点留め等の処置を施している雑誌”ではなく“成人向け雑誌コーナーに置かれている雑誌”だと考えられる。また、千葉市の青少年健全育成課に問い合わせたところ、フィルムで覆うのは「条例で指定された本(有害図書類)」を対象としているとの回答だった。

改ページ

 昨年3月に協会側が提出した質問状への回答で、堺市は国連機関「UNウィメン」の進める「公的空間における女性と子どもに対する性暴力やセクシャルハラスメントを防止し減少させることを目的とするセーフシティ・グローバル・イニシアティブ」に参加した取組のひとつであることを説明している。回答書にはこうある。

「本取組は、これまで本市が取り組んできた市民の安全安心を確保するための各種施策や、先進的に取り組んできた男女共同参画の推進、人権を尊重するまちづくりの推進等にかかる様々な施策を女性や子どもの視点から分析し、改善を行うなかで、更なる安全安心な都市づくりを目指すための新たな取組です」

 これは協会側からの、「そもそも有害図書類を青少年に見せない環境を整備することが女性や子どもに対する暴力の防止や減少につながるという科学的データがあるのか」という質問を受けてのものだと考えられる。だが協会側はこの回答に納得しておらず、4月にあらためて前出の声明(申入書)を送っている。

 難しい問題だと思う。市としては雑誌の“表現”に規制をかけようという話ではなく、あくまでもそれを売る場所が「女性・子ども」を含む誰もが入るコンビニエンスストアの一角であるため、「女性・子どもの視点」からの改善案として、フィルム包装を提案している。個人の嗜好を制限するものではないと考えられる。しかしこれまで当たり前に存在していたものに規制がかかるのだから、業界から納得がいかないとの声が上がるのもわからなくはない。

 ただ、今回の問題に限らないが、その「これまでの当たり前」が、誰のどういう視点で整備された環境だったかを考えることも大事ではないだろうか。どのような業界でも、ユーザビリティの向上を検討すれば、「これまでのまま、何も改善しないで継続することが一番いい」との結論にはならないであろう。

 たとえば「子どもへの配慮」という観点を持ち出したときに、「そんなものに配慮する必要などない」という業界は果たしてあるだろうか。セブン&アイ・ホールディングスも、日本雑誌協会も、日本書籍出版協会も、決してそうは言わないはずである。「子どもへの配慮」の必要性について、という段階では、議論は割れないはずだ。ではどういう形で販売すればいいのか、現状のままで本当にいいのか、表現の自由を担保しつつ別の方法を提案していくことは出来ないのか。市の側としても、基準を明確にするなど並行して進めなければならないことがあるのではないか。

 その一方でまた、こうしたことが「エロ」に限らず運用されていき、表現の自由を奪うようになるかもしれない、との懸念もわかる。特定の権力への批判的な意見が「公の場にふさわしくない」と弾圧されたり、根拠のあやふやなままに「危険思想だ」と決めつけられ販売を規制されたり……というディストピアの想像は容易い。だからこそ慎重かつ十分な議論の必要性を感じる問題だ。

最終更新:2017/09/09 07:15
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