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日刊サイゾー トップ > 社会  > パチンコ解禁は断末魔? 信頼も文化も失ったCMの未来(後編)

パチンコ解禁は断末魔? 信頼も文化も失ったCMの未来(後編)

freedom.jpgカップヌードルとコラボした『FREEDOM』。たしか
にインパクトはあったけど……?

前編はこちら

吉良 僕は、これからの日本企業の広告戦略は、“メルセデスベンツ・BMW化”していくような気がしています。つまり、欧米のように会社名と商品名をもっと密接に結びつけていくわけです。たとえば、今、ビールやら発泡酒やらのCMがテレビではあふれていますよね。ところが、「ゼロ」という商品名は認知されても、それがどのメーカーのものなのかまでは認知されにくい。これは、広告効率としては非常に悪い。テレビでは、会社名とそのブランドイメージを大々的に認知させ、そこにぶら下がる各商品は、ターゲットとなるメディアを選んで広告展開していけばいいんじゃないかと思います。中年向け・女性向けの低カロリー商品のCMを、わざわざ地上波で流す必要はないわけです。

 たとえば、テレビで「キリン」という会社名、ブランド名だけを売り込んでおけば、あとはその名前を冠したシリーズを横展開していけばいい。女性向けの「キリン・ウーマンシリーズ」をつくったら、テレビCMはまったくやらずに女性誌だけで展開するとか。これからは、きっとそうなっていくだろうし、そうなると広告費配分も大きく変わっていくと思います。

時代の文化や感覚を忘れた
万人受けCMの効果

谷村 そういう流れの中では、CMの中身も変わってきますよね。今まで文化的価値の高い広告表現というものが求められていたと思うんです。CMとは、市民文化や共通の感覚を集約して表現するものだった。CMを見ること自体が、今の社会やこれからの消費を見ることにつながった……ただ、かつてのような1000万人単位の文化や流行が存在し得なくなってきて、それを反映させるようなCMが生まれづらくなってきています。日清カップヌードルの「フリーダム」だって、すごくお金はかかってます。オリジナルビデオなんかの複合メディア展開まで用意されていました。かつて「hungry」のシリーズでカンヌを制覇した商品と、長い間、CMを封印していた大友克洋の黄金の組み合わせで、スポットをいっぱい打って、テレビ広告発で大きなブームを作り出すはずだった。なのに、全然話題にならない。日清食品の本社移転の記念イベントくらいにしか見えない。これはテレビの影響力とか広告文化を信じてた人にとってはショックですよ。

吉良 CMの文化が問われている時代ですよね。だからこそ、CMクリエイターたちには、その時代の文化や感覚をうまく拾い上げて、企業側のメッセージと消費者側の嗜好を結びつけるような作品をつくってもらい、継続的文化価値を高めてほしいと思います。もはや、マスの中に文化は生まれにくいからこそ、チャレンジしてほしい。

谷村 継続的といえば、テレビ局側は視聴率が取れないとなると、すぐに番組内容をコロコロ変えたり、打ち切ったりする。本来スポンサーは、いい番組とは長く付き合いたいと思うし、それによって長期的な自社のブランドづくりにも役立つわけです。そういう番組とCMがワンセットになった、継続的文化価値の構築という流れは、現在のテレビではほとんど見られませんね。

吉良 企業も、スポットCMを垂れ流すんじゃなくて、先進企業として、徹底的にいい番組を世の中の人たちに伝えるんだという意欲に燃えて、広告費を使ってほしいよね。目先の視聴率にとらわれずに。そういう企業こそ、今後はイメージアップしていく。やっぱり『情熱大陸』(TBS/アサヒビール1社提供)、『THE 世界遺産』(TBS/SONY1社提供)のような番組は、スポンサーのイメージも上がりますよね。そうした企業が、テレビの信頼性を担保するために、CMの審査基準がこれ以上低下しないよう、テレビ局に働きかけるような動きがあっていいと思うんです。メディアへの過剰な介入はいけないけど、公益性のある立場から物言うことを、僕は支持しますね。

谷村 ただ、そういう意思を持ったスポンサーが、地上波を離れてBSとかCSに行っているのもありますよね。全日空がBS−iとタイアップを行っているように。

吉良 それでもいいと思う。ターゲットメディア化っていうのはそういうこと。ある程度ターゲットが絞り込まれたCSとかBSと、ウェブとか雑誌といったメディアがクロスしていきながら、そこに根付く企業文化、広告文化というものは、時代に応じてどんどん変わっていくんでしょう。

谷村 民放キー局も、そういう流れには抗えないとわかっているので、放送外事業に注力しています。テレビドラマは、映画のための前宣伝のようになっている。深夜アニメでビデオ会社などと制作委員会を組む場合だと、DVDやキャラクターグッズの販売で回収することが目的だし、視聴者はどうせ録画して見るんだから、オンエア時の視聴率はもう重要じゃない。深夜枠のほうが放送料は安いから、いっそ、そうしたビジネスに向いている。

 フジテレビの場合で言うと、こうやって稼いだ放送外収入が、売り上げの半分を占めるところまで来ている。その数字を知ってるから、テレビ局の人も、もう視聴者を放送時間に合わせてモニタの前に座らせて、CMを見せるっていうビジネスモデルが断末魔だってことはわかってます。

 もちろん今後も、動画を見る生活習慣は残るでしょう。しかし、それはCSであったり、ネットであったりと地上波のテレビとは限らない。なので、民放テレビはその影響力に応じたサイズに、合理的に再編せざるを得ないはずです。
(松井克明・構成/「サイゾー」7月号より)

『ターゲットメディア・トルネード』/吉良俊彦

マスメディアからターゲットメディアへの解説書

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吉良俊彦(きら・としひこ)
広告・出版プロデューサー。電通クリエーティブ局・営業局・雑誌局などを経て、ターゲットメディアソリューションを設立。中国の出版社の最高顧問を務めるなど、出版、広告業界で幅広く活躍。近著『ターゲットメディア・トルネード』(宣伝会議)では、ポスト・マスメディア時代における、雑誌、ウェブ、OOH(アウト・オブ・ホームメディア)といったターゲットメディアが持つ特性と役割を解説している。

谷村智康(たにむら・ともやす)
広告代理店、コンサルティング会社、コンテンツファンドなどでの業務経験を持つ。既存のメディアやシステムの枠に依存するマーケティングではなく、広告費の過剰と偏りを消費者の都合に合わせて、それ自体を根底からひっくり返そうとする「マーケティング」プランナー。著書に、電通の上前をはね、グーグルの先を行く、メディアと広告をめぐるビジネスモデルを説いた『マーケティング・リテラシー~知的消費の技法』(リベルタ出版)などがある。

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最終更新:2008/07/28 18:38
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