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スポーツ中継を殺す「放送の独占」と「過剰演出」(後編)

yasutaro_matsuki.jpgテレビ朝日のサッカー中継といえば、熱い解説で
お馴染みの松木安太郎氏。近頃は、正統的なサッ
カー解説ではないが、「面白い」「笑える」と各方
面から人気。

前編はこちら

スポーツ中継は素材が勝負
安い演出なんかいらない

──個人的には、日本代表戦の中継に、過剰な演出はいらないと思うんですがいかがでしょう?

倉敷 結局、スポーツ中継は素材が勝負なんですよ。代表チームが弱ければ、誰も見なくなるでしょう。でも、民放の中継は、素材に過剰な演出を施してしまって、本来の姿を見えなくしてしまっている。選手が足をつっていても「大丈夫です、彼ならやってくれますよ!」なんて実況アナが言ってしまうと、見てる人は「そうなのか」と思ってしまう。視聴者が考えるヒマもなく、テレビが勝手に結論まで言ってしまう。


──たとえば、まったく見たことのない外国人選手であれば、どの国のどのクラブに所属していて、といった基礎的な情報は必要だとは思いますが、「アフリカの○○」「中東の○○」みたいにおかしなキャッチフレーズをつけたりするのは、どうなんでしょう。

倉敷 キャッチフレーズをつけるというのも、演出のひとつですが、あまりに奇をてらいすぎて、何も伝わらない、心に響かないのであれば、やらないほうがいいですよね。わかりやすいキャッチフレーズをつけてしまうのは、数字を稼ぎたいプロデューサーの意向やディレクターの功名心もあるかもしれない。あるいは、事前の取材をしてないから、キャッチフレーズだけつけて、お茶を濁しているという部分もあるでしょう。ただひとつ言えるのは、安っぽい演出のせいで、本来の味すらわからなくなってしまうということ。そのまま食べても美味しい野菜に、安いドレッシングをかけたら、変な味になるのと一緒です。視聴者も、そういうものばかりを見させられていると、“味覚オンチ”になってきますよ。

──昨年、SKY PerfecTV!はJリーグ全試合の5年間の放映権を150億で購入しましたよね。ただ、放映権料に見合う数字は出せていないようで、大赤字という話もあります。ある意味で「十字架を背負った」という見方もできます。正直、スカパーが国内のJリーグをどう盛り立てて行きたいのか、よく見えてこないんですが……。

倉敷 昨年1年目と今年2年目で中継スタイルの方針は変わってきています。1年目はすべての試合をスカパーだけで中継しようとして、地方に点在する各Jリーグクラブの事情に精通している地元放送局のスタッフを使わなかった。これが大きな失敗だったと思います。2年目、つまり今年になって、地元の制作スタッフも中継に参加するようになって、少し良くなりましたね。でも、具体的に言えば、試合中継において、オフサイドやファウルなどの微妙なシーンの扱いやフレーミングなどがバラバラで中継の意思統一がとれていない。違うというのが悪いことではないけれど、中継する上でベーシックに共通しているものは必要だと思うんですよ。ところが実際には、その共有まで行っていないのが現状です。ただ、この“十字架”は背負い甲斐のあるもので、スカパーで仕事をする人にとっては、少なくともこの先3年間は続けて同じ中継に関われるわけです。これまで海外のコンテンツを数多く中継してきたスカパーが、国内のサッカー中継でどういう絵を作っていくかというのは楽しみなところです。たとえば、欧州チャンピオンズリーグ中継のフレーミングやスイッチングをJリーグ中継でもやってみたい、という意識があれば、Jリーグ中継も当然変わってくるでしょう。地上波のスポーツ中継関係者も見てくれている人がいるでしょうし、相乗効果でスポーツ中継全体が向上していくのが理想ですね。

倉敷保雄(くらしき・やすお)
1961年、大阪府生まれ。SKY PerfecTV!やJ SPORTSでサッカー中継の実況アナウンサーとして活躍。ラジオ福島アナウンサー兼プロデューサー、文化放送記者を経てフリーアナウンサーに。愛称はポルトガル語で「名手」を意味する「クラッキ」と苗字の「倉敷」とをかけた「クラッキー」。著書に『実況席より愛をこめて』(徳間書店)、山本浩氏(NHK)との対談集『実況席のサッカー論』(出版芸術社)。

「サイゾー」7月号より/構成・河治良幸)

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最終更新:2013/02/12 11:23
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