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グーグルが起こす”広告革命”と”プライバシー監視”ビジネス

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 北京オリンピックという特需があったのに、新聞やテレビといったマスメディアの広告の売り上げが「オイルショック以降で最悪」となりそうな08年度上半期。各社の広告営業担当者が最後の追い込みをかけて数字をつくろうとしているところに、8月末には「トヨタがマスメディアの広告予算を3割カット」という発表である。

 トヨタのマスメディア広告予算は、年間でおおむね1000億円。すなわち、削減額は300億円。これだけで、サントリーやイオンの広告が丸ごとなくなるに等しい減額なのだが、日産などのほかの大手自動車メーカーも広告予算のカットを同様に行うと見られているから、各社の担当者はさぞ青くなっていることであろう。

 こんな大胆な削減ができるのは、ネットで広告の波及効果を広告主側が明確にトレースできるようになってきたからだ。Webでの反応を見ていれば、商品への関心を量的に把握できる。消費の動向が可視化できるのなら、それを効率的に管理して納品するのは「カンバン方式」のトヨタならお手の物。今までどんぶり勘定だった広告の世界に「カイゼン」のメスが入ったわけだ。

 かつては、「テレビで視聴率が30%取れましたから、3000万人が見たはずです」と推計して成果としたものだったが、今では「検索された実数」を提出できるし、ユーザーのIDとリンクさせることで、年齢や性別、居住地はもちろん、それは誰なのかまでわかるのである。クライアント(売って儲けたい人)がどちらを重視するかは言うまでもない。マーケティング(売って儲ける仕組み)は、「広く告げて関心を喚起する時代」を脱して、「消費を納品する時代」に移ったのである。

 こうなるとマーケティングの主役は、検索を中心としたデータベースメディアとなる。日本ではヤフーが50%以上のシェアを誇り、独自の強さを発揮しているものの、世界的にはグーグルが最先端かつ圧倒的シェアを誇る。

 検索はもちろん、ニュースが読めて、動画が見られて、メールやスケジューラーや地図・乗換案内などの便利なツールも充実し、おまけにワープロや表計算ソフトまで使える。「ストリートビュー」で小さな路地まで覗くことができるだけでなく、「グーグルアース」で世界中の航空写真を自在な縮尺で見ることができ、「グーグルスカイ」では宇宙空間を自由に探索することまでできる。番組や記事を受動的に見ることしかできないマスメディアよりも、使い勝手ははるかに良い。しかも、広告収入型モデルなので無料で利用できるのだ。

「私」を売るからこそ無料で利用できる

 ただし、ネットにおける広告は、マスメディア時代のそれとは質的にまったく異なる。

 グーグルは「広告収入型ビジネスモデル」と説明されることが多いが、そこでユーザーが強いられるのは、単に販売促進のメッセージを視認することだけではなく、「私」の活動履歴をデータとして供出させられる責務もある。

 「私たち」がグーグルを利用した履歴は、日々、データベースに蓄積される。そのデータを使って消費意向の追跡や精密な広告効果シミュレーションができるようになり、広告の精度が上がることでムダが減る。広告費は「間接税」のように商品やサービスの売値に転嫁されているから、広告のロスが減ることは廉売につながり、消費者にとっても悪いことではない(ちなみに、ニッサン・アメリカのデータによると、自動車を1台販売するに当たり、平均で10万円程度の広告費がかかっているそうだ)。

 とはいえ、「活動履歴を保存してました」とか「そのデータを使って商売してます」とは、グーグルは積極的には語って来なかった。今でこそ、トップページにそうした説明を含む「プライバシーポリシー(プライバシーセンターというページ内にある)」へのリンクがあるが、その登場がニュースになった(「CNET」08年7月7日)ほどで、05年10月14日の初掲載以来、それまでは秘められた存在だった。

 活動履歴を保存しておくのは、第一には精密な広告表示を実現するため。誰が見ていても頭数とするマスメディア広告とは違い、住所・年齢・性別といったデモグラフィック(人口統計的な属性)だけでなく、趣味・嗜好・関心・興味などのサイコグラフィック(心理的属性)も踏まえて区分けして、ターゲットを絞り込んで宣伝することができる。この精度の高さが生み出す費用対効果がネット広告の強みだからである。

 次いで、蓄積されたデータで市場分析を行うため。

 ビデオリサーチの視聴率調査の対象が首都圏では600世帯で、視聴チャンネルの時間量しか測定できないことと比較すると、グーグルの利用履歴は途方もない数を対象とした定量・定性両面の市場調査であることがわかる。だから、かつてない精度で市場の状況がわかり、トヨタはマスメディア広告費を300億円も削る算段ができるのである。
 ところが、この「市場調査」はストーキングと紙一重(という後ろめたさが、プライバシーポリシーを積極的には語らない理由だろう)。いつどのような検索をして、誰とどのようなメールのやり取りをし、スケジュールがどのようになっていて、どの交通機関を使ってどう移動しようとしたかという「私」の行動履歴が、グーグルのデータベースの中に(自分で削除しない限り)永遠に記録されているからである。そして、そのデータはグーグルが自由に加工できて、いつでも第三者に販売できるからである。

(この続きは、「サイゾー」10月号で!)

谷村智康
広告代理店、コンサルティング会社、コンテンツファンドなどでの業務経験を持つ。既存のメディアやシステムの枠に依存するマーケティングではなく、広告費の過剰と偏りを消費者の都合に合わせて、それ自体を根底からひっくり返そうとする「マーケティング」プランナー。著書に、電通の上前をはね、グーグルの先を行く、メディアと広告をめぐるビジネスモデルを説いた『マーケティング・リテラシー 知的消費の技法』(リベルタ出版)などがある。

マーケティング・リテラシー―知的消費の技法

マーケティングの未来。

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最終更新:2008/09/18 15:00
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