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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第40回

ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」

buramayo_book.jpg『時事マヨ―「ブラックマヨネーズ」
のニュースプロファイリング』小学館

 7月18日から20日の3日間、吉本興業が主催するお笑いの祭典「LIVE STAND09」が千葉・幕張メッセで開催された。3年目を迎えた今年は、過去最高の観客動員数6万人を記録した。TKO、ナイツ、髭男爵といった非吉本所属の芸人も出演して、イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。

 その「LIVE STAND09」の1日目に私も足を運んでいた。トップバッターで新ネタを披露して爆笑をさらったNON STYLE、しっかりした構成の漫才でベテランの意地を見せたCOWCOW、中田敦彦の狂気がさらに鋭さを増した感のあるオリエンタルラジオなど、実力派芸人たちが次々に登場していった。

 そんな中で最も印象に残ったのは、この日のトリを務めたブラックマヨネーズの2人だった。長い持ち時間を使ってゆったりしたテンポで漫才を披露する彼らには、元・M-1王者の風格が感じられた。


 2005年のM-1を制したブラックマヨネーズは、それから一気に全国ネットでの露出を増やしたものの、それほど大きくブレイクするには至らなかった。優勝後の瞬間最大風速では、06年のチュートリアル、07年のサンドウィッチマンには遠く及ばない。だが、ブラマヨはそれからも地道にバラエティ番組に出演して、少しずつ業界内での評価を上げていった。現在では、中堅芸人が多数出演するような番組では欠かせない存在になりつつある。特に、小杉竜一の安定感のあるいぶし銀のツッコミ芸は、周りの芸人たちからも一目置かれている。

 だが、彼らは同業者の評価は高いが、異性にはあまり人気がない。各所で行われている人気芸人ランキングなどでも上位に名前が挙がることはほとんどない。ハゲの小杉とブツブツ肌の吉田敬。2人そろって外見のコンプレックスを強調するアクの強いキャラクターが、受け手を選ぶようなところがあるのかもしれない。

 ただ、「ハゲとブツブツ」と並び称されることも多いが、小杉と吉田の芸人としてのキャラクターには明確な違いがある。小杉が自分のハゲっぷりを明るくネタとして笑い飛ばしているのに対して、吉田はもっと根深いコンプレックスを抱えている。彼は単にブツブツ肌に劣等感を持っているだけでなく、「モテない」「人気がない」といった負の感情を原動力としてここまで活動を続けてきたタイプの芸人なのである。いわば、コンプレックスを笑いにすることで吉田は自分の芸風を確立したのだ。

 ただ、「コンプレックスを笑いにする」と一口に言っても、実際にそれをやるのは容易なことではない。心に傷を抱えた人間が傷口を堂々とさらけ出しても、痛々しく見えてしまうだけだからだ。しかも、吉田のコンプレックスは並大抵のものではない。長年かけて熟成された彼のひがみ根性は、触るものすべてを傷つけてしまう。

 そんな吉田の屈折した人格を笑いに転換できるのは相方の小杉だけだ。漫才の中で小杉は、取るに足りないことであれこれ思い悩む吉田の話を優しく聞いて、アイデアを出したりフォローに回ったりする。だが、その優しさがあだとなり、心配性の吉田に不用意な提案をしてしまい、そこで吉田に足もとをすくわれてしまう。吉田のコンプレックスは、ブラックホールのように小杉の好意さえも飲み込もうとする。筋違いの怒りをぶつける吉田に対して、小杉も負けじと大声でつっこみ返す。正論を言っているはずの小杉が、少しずつ吉田のペースに巻き込まれていく。言葉のやりとりがどんどん加速するしゃべくり漫才のダイナミズムがそこにある。

 現在の彼らのテレビタレントとしての最大の強みは、漫才のテンポでトークを回すことができるという点にある。今のところ、救いようのない吉田のコンプレックスをきちんと処理して笑いに変えられるのは小杉しかいない。優しささえも飲み込むブラックホールのようなコンプレックスを持っている吉田。そこに吸い込まれそうになりながらも、優しく力強くあくまでも常識の立場に立とうとする小杉。ボケとツッコミという役割をそれぞれが両極端まで振り切っているブラマヨの漫才には、宇宙を感じさせる壮大なスケールがある。
(文=お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

時事マヨ―「ブラックマヨネーズ」のニュースプロファイリング

爆笑トーク38連発

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/07 12:54
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