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追跡!「海の家」の謎

「ホントに儲かるの? 誰に許可を取ればいいの?」(後編)

umi2.jpgはたして海の家は儲かるのか否か

■前編はこちらから

 地域によって権利金事情が異なるということは理解できた。それでは実際に、どこかの海岸で300万円の営業権を購入したと仮定し、どの程度儲かるか否かを、あくまで概算であることを前提にシミュレーションしてみたい。

 まず入り込み客だが、ひとまず1日平均100人と想定。客単価を2000円とすれば一日の売上げは20万円。月にすれば600万円、2カ月で1200万円の売上げとなる。これが収入の全てだ。

 次に支出。飲食店経営の鉄則として、フードコスト(材料費)とレイバーコスト(人件費)とロイヤリティ(フランチャイズ料などの諸権利)の合計(FLO)は売上の60%~65%程度に抑えるのが理想。通常、FLOに店舗費用は含まないが、海の家が2カ月間という超短期決戦であるうえ、権利金も月々の売上げから%で支払うのではなく、前金で一括払いが原則という特殊性から、今回はFLOに店舗費用と権利金を含めて売上げの85%に設定。これによる支出合計は 1020万円だ。これらを全て差し引きすると、ざっくりした概算ながら、1月当りの利益は90万円と出た。

 組合と交渉して営業権を購入し、食品衛生法の講習を受けて保健所の許可を取得、さらにメニューやレシピの研究、仕入れ先の選定、店舗設計と業者発注及び完成までの現場監督、そしてバイトの確保。これだけ走りまわった結果、利益が月90万円というのが妥当かどうかは判断が分かれるところ。しかも店舗の建築は遅くとも6月中には着手し、撤去も9月中旬までかかるのが普通だ。準備期間も含めれば実質3カ月か4カ月はかかりっきりになると考えたほうがいい。

 しかも、これは比較的好天に恵まれたシーズンと仮定した話。冷夏や台風の当たり年ならこんな計算は一発で吹っ飛ぶ。権利金ももう100万円くらいかかるかもしれないし、逆に安くおさまるかもしれない。お洒落で本格的な料理メニューに挑戦すれば客単価は上がるが、同時に原材料費も嵩む。手のこんだ店舗設計をすれば初期投資も膨らむが、一方で人気を呼んで集客は増加する可能性もある。事実、江ノ島や鎌倉では大手広告代理店が展開する100坪規模の大規模な店舗が複数あり、一部上場企業をスポンサーにつけながら、月に1000万円単位で売り上げる例も珍しくない。従ってこの数字は非常に大まかな概算の域を出ないものであり、あくまで収益構造を知るうえでの目安であることをご確認いただきたい。

 ところで、わずか2カ月という期間で営業を終える海の家の経営者たちは、夏以外は何をしているのだろうか。関係者に聞いたところ、「地元で民宿や飲食店を経営している方が多い」(逗子市役所)、「飲食店のオーナーがほとんど」(由比ガ浜の組合員)と、どちらかといえば地元の”同業者”が多い様子。共通しているのは「海の家だけで1年分稼ぐのは無理」という声だった。

 しかし、そうなると不思議に思えてくるのは、自治体から経過措置として与えられている占用許可と権利金の存在である。土着民が特例として営業許可を与えられているのは、それをしないと彼らの生活が成り立たなくなるからというのが唯一最大の理由のはず。飲食店を経営しているなら、夏に海の家を開かなくても生活は維持できそうにも思える。ましてや、某海岸で親子代々営業権を受け継いでいるある組合員は、普段は一般企業に勤めているという。彼は「時代の変化で海水浴客も頭打ち。天候のリスクや大手の参入で昔のやり方では儲からない。”本業”も忙しいから永代権利として誰か1000万程度で買い取ってもらえればありがたい」と本音を語ってくれた。

 これについて海岸を管理している自治体はどう考えるのか。江ノ島海岸一体を管理している藤沢土木事務所に聞いてみると、「あくまで個別にではなく組合に対して許可を出しているが、組合がそれをどう運営しているかまでは把握していない」とつれない答え。経過措置として与えている権利が数百万単位で売買されていること、”本業”を持つ組合員の中には営業に携わっていない者もいることなど、実情を把握しているかとの質問には、しばし無言の後「県が関知することでは……」と歯切れが悪い。

 しかし、権利に金銭的価値が発生する理由は、県が既得権者に独占的に許可を与えているからに他ならない。関知しないで済む話だろうか。「まぁ、新規の許可は出さないので、現営業者が高齢化などで廃業すれば徐々に状況は変わっていくのかと……」(同)と、回答は要領をえない。たとえ新規許可を出さずとも、先の”サラリーマン組合員”のように権利が売買されれば営業権の”株”そのものがなくなるはずもない。権利取得者の正確なリストを作成し、今後一切の権利譲渡・売買を認めない旨のルール作りでもしない限り、営業権の名義変更は自由自在だ。

 かくして、既得権を一括管理する組合というエージェントを通し、お上公認の独占営業権は半永久的に売買されることになるのである。

 こうした状況について、九十九里町で強制代執行を行なった千葉県土木部は「他の自治体についてコメントはできない」としながら、「千葉県は海岸法に基づき原理原則に従っただけ。特に片貝海岸では、”問題のある業者”が通年居座って生活までしていたという特殊事情もあった」と説明をしてくれた。千葉の全海岸で強制代執行をしたわけではなく、既得権者が独占的に占用を続けている海岸もやはり存在する。また、片貝海岸で県が立替えた億単位の撤去費用もいまだ全額を回収できていないという。財源が県民の血税であることはいうまでもない。

 げに恐ろしきは謎多き「海の家」の世界。どうやらそこには、夢とリスクと、閉鎖的な価値観に彩られた日本古来の生活習慣が潜んでいるようだ。
(文=浮島さとし)

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最終更新:2009/07/30 16:36
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