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【第4回】小明の「大人よ、教えて!」"逆"人生相談

福本伸行さんの至言「俺は『面白いものを作ろう』じゃなくて、作れちゃう」(前編)

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モテない、金ない、華もない……負け組アイドル小明が、各界の大人なゲストを呼び出し、ぶしつけなお悩みを聞いてもらおうという好評連載。第4回のゲストは、『カイジ』でお馴染みのマンガ家・福本伸行さんです!

[今回のお悩み]
「負け癖を、どうにかしたいです……」

──漫画いつも愛読してます、小明です! 福本先生とは私が仕事してもない講談社の豪華な忘年会にもぐりこんだときにご挨拶させていただいてから、何度かご飯をおごっていただいた仲なんですが、今回はちょっと真剣に相談に乗っていただきたいことが……。

福本 はいはい、どうぞ。

──えっと、『賭博黙示録カイジ』の一巻でどうしようもない生活を送ってるカイジが「お前には負け癖がついている」って言われるシーンがありましたけれど、私も今までの自分の人生で、グラビアとか、歌とか、芝居とか……いや仕事だけじゃなくって人間関係とかも……いろいろ挑んだ数だけ失敗に終わってるんです。これって、きっと私にも初期カイジみたいに「負け癖」がついているせいだと思って! どうしたら私もカイジみたいに大勝負で勝って起死回生できますかね?

福本 あはは。たぶん、急に大きな勝負には勝てないよ。まずは小勝負に勝つことだね。小さな勝負にコツコツ勝っていかないと。例えば、毎朝早起きするとかね。

──わー、今ちょうどダラダラした生ける生ゴミみたいな生活を送ってます。確かに先生は、規則正しい生活を送ってますよね。ちゃんと仕事をする時間を決めて……。

福本 いや、全然規則正しくないよ! ただ、仕事はねー……。人間って踏ん張んなきゃいけないとこってあるじゃん。俺たち自由業って、それをないがしろにしたらどこどこまでも下がっていってしまうし。今は、ともかく……、昔は何カ月後かにネットカフェ難民ってのもありえたわけで。

――最近ネットカフェとかマンガ喫茶の快適さにクラクラしてる私には他人事じゃない話ですよ! 今もせっかくライターの仕事をもらっているのに、締め切り前ギリギリにならないと動けなくって、それまでゴロゴロしてマンガを読んだり惰眠を貪っちゃったり……。

福本 締め切り前にがんばるっていうのは、ちょっとねー。僕も『銀と金』(双葉社)のころは締め切りに追われてたけど、締め切りに追われてやる仕事の労力が「1」だとすると、締め切りに追われないと「0.7」で済む。70%の労力で描けるんだよ? だから締め切りに追われるのは、すごいムダ! もともとマンガを描くのは楽しいことなのに、締め切りに追われて「もう寝れません!」って感じでやると、「はぁー……」ってなっちゃうでしょ? 絵ならまだしも、ストーリーだったら「あー出ない出ない!」って地獄の苦しみだから、それも避けたいんだよね。

──私は今も毎月「はぁー……」ってなってます。締め切りより前に終わらせようって決めたきっかけは何だったんですか?

福本 できるんじゃね? と思ったんだよね。だってできるはずだもん。

――すごいなぁ。私もまずは「できるはず!」と自分を洗脳することから始めます! ところで今、『最強伝説 黒沢』(小学館)の黒沢みたいに悲哀に満ちた人生を送っている人とか、『賭博黙示録カイジ』の初期のカイジみたいな、くすぶり続けて、ねじ曲がっちゃったような若者がたくさんいて、社会問題になっていますけど、先生はそういう方を救いたいっていう気持ちで漫画を描かれてるんですか?

福本 それ、少しあります。どういう救いかっていうと、楽しんでもらう、っていう意味の救い。「おまえ、これを参考にしてがんばれよ」っていう意味合いではなくて、楽しんでもらうっていうことでパワーを与えたい。『黒沢』もそうだし、『カイジ』『アカギ』も全部そう。そりゃあちょっとは「ああ、カイジいいこと言ってたなぁー」とか、「オレもがんばるか……」みたいな気持ちを引き出せたらっていうのはあるけど、基本は楽しんでもらう。その「楽しんでもらう」っていうのは、ちょっと最近、使命感みたいなものがあります。俺は「面白いものをつくろう」じゃなくて、作れちゃうから。作れるなら、がんばらないと……。

──能力を与えられた者の責任ってやつですね!

福本 そうそう。例えば、イチローがくじけて酒飲んでたら嫌じゃない。俺、イチローほどタイトにがんばれないけど、やっぱり求められてるから、がんばろうって気持ちはありますね。だって、俺のマンガ面白いもん!

──かっこいい! ちなみに私が福本先生のファンになったきっかけは『最強伝説 黒沢』だったんですが、あの主人公の黒沢のモデルは先生だったらしいですよね。でも黒沢って、中年男性が社会の底辺でコンプレックスにまみれて転がりながら戦う、不器用で気の毒な男なんですけど、先生にも黒沢みたいな報われない孤独な時代があったんですか?

福本 かざまプロ(当時アシスタントであったかざま鋭二氏のプロダクション)を辞めてからの22、3、4歳と……そのあともマンガがそんなに売れないから、30くらいまでと、あと10代と……黒沢時代は長いですよ。

──今のお姿からは想像つかないです。その頃のくすぶりを思い起こして描くんですね!

福本 その頃の「思い」もあるけど、感覚的に言うと、いわゆる憑依をするんですよ、黒沢なり、黒沢のまわりの人間に憑依して。だから、僕は今そういう立場にないけれども、その気持ちがわかるんですよね。
後編につづく/取材・構成=小明/「サイゾー」9月号より)

福本伸行(ふくもと・のぶゆき)
1958年、神奈川県生まれ。漫画家。79年『よろしく純情大賞』でデビュー。以降、強烈なキャラクター描写と独特の世界観で男の世界を描き続け、熱狂的なファンを多く持つ。原作を担当した映画『カイジ 人生逆転ゲーム』が10月10日公開予定。
映画公式HP<http://www.kaiji-movie.jp/

小明(あかり)
1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、現在、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。6月2日発売の書籍『アイドル墜落日記』(洋泉社)に重版がかかり、号泣中。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/

最強伝説黒沢 1

アジフライ……。

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最終更新:2018/12/19 15:06
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