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妖怪小説家・田辺青蛙の「妖しき本棚」第9回

頭が痺れて動けない! 真藤順丈が作る新しいバイブル『バイブルDX』

baiburu.jpg『バイブルDX』メディアファクトリー

「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。

 昔から宗教というものに特にこだわりはなかった。祖母の生家である寺院で、僕は「マリリン・マンソン」を聞きながら『水木しげるの妖怪図鑑』(講談社)を読み、妹はミッション系の学校に通っていた。だから探せば家のどこかに聖書はあるんだろう。ああ、『手塚治虫版の旧約聖書物語』(集英社)なら読んだ記憶があるから、僕の部屋の本棚には確実にある。そんな日本人にとって、クリスチャン以外には、馴染みが薄いと思われている聖書。だが、そんな日本でもキリスト教の異説を取り入れた『ダヴィンチ・コード』(角川書店)は大ヒットしたし、1995年からずっと話題作であり続けている、『新世紀エヴァンゲリオン』は聖書の用語がふんだんに使われている。おおまかな内容を知っているようで知らない聖書。それを1から物語の中で作り出そうとしたのが、真藤順丈さんだ。

 僕が生まれて初めてお会いした小説家が、京極夏彦さんだったせいもあるけれど、文筆家のイメージというのは、眉間に皺を寄せて気難しいそうなことを言っている渋い人という思いがあった。だが、07年に日本ホラー小説大賞の授賞式で、飴村行さんと共に出会った真藤順丈さんはそうではなかった。髭に帽子で、海外に長く住んでいる日本人のような風貌。個性派的な俳優……いや、ラッパーとかDJとかそういうタイプにも見える。とにかく、真藤さんの見かけは小説家らしくなかった。そして、経歴も普通ではなかった、4つの異なる新人賞を取ってデビュー。それもたった一年の間に、だ。受賞したのは、ダ・ヴィンチ文学賞大賞、日本ホラー小説大賞大賞、電撃小説大賞銀賞、ポプラ社小説大賞特別賞[http://bookjapan.jp/interview/081110/note081110.html]。すげぇ人だなと思った、そして敵わないなあ……とも。そんな凄い経歴にも関わらず、真藤さんはハニカミ屋さんだったのか、それともプラグスーツを着た僕に絡まれたくなかったのか、どちらかは分からないけれど授賞式ではあまりお話することが出来なかった。ただ、礼儀正しい言葉遣いと、照れた笑顔がとても印象的だった。

 次に真藤さんに出会ったのは、映画の中だった。鬼才、平山夢明氏が監修・脚本・監督した『大日本ノックアウトガール』という作品で、彫順という名の刺青彫師役。主人公の少女に助言を与えながら、刺青を入れていくシーンには思わず痺れた。初めてとは思えない玄人裸足の演技に、渋い言い回し。早速、僕の担当編集者のKにこの作品を紹介すると「真藤をただ作家にしておくのはもったいないかも知れない、役者としてもこれほど才能があるだなんて……」と驚いていた。真藤さんは立て続けに受賞作を発表し、飄々としていながらもハニカミがちな喋り方で、テレビに出ている姿や、雑誌でのインタビューも頻繁に見かけることとなった。ライトノベルもホラーも純文学も、何でも書けるカッコいい兄ちゃん風の作家。

 そんな真藤さんが書いた、『聖書』を越える雑誌を作り出す物語。この世でもっとも出版部数が多く、歴史的にも影響力が一番強かったといわれるあの聖書を題材に書く。今まで、聖書を研究したり、物語をそのまま再現して追ったり独自の解釈で書いた人はいたけれど、新しい聖書を書くとはどういうことだろう? しかも聖書的な雑誌って何だ? 僕はあらすじを知ると、朝一番に書店に駆け込み、『バイブルDX』を手に取った。

 読み終えた後、何でも出来そうな充実感が指先まで満ちているのに、頭は痺れて動けない。不思議な感覚が体中に満ちているのが分かった。「どうだった?」と感想を妹に求められたのだけれど、上手くこの感動を伝えることが出来ず、僕は彼女にこの本を手渡した。今、妹は何かに取り憑かれたように『バイブルDX』を読みふけっている。

 奇跡を起こす人物を探し、側にいて取材しながらキリストの選定を行う。どの聖者的な人物も一癖も二癖もあって、それでいてどうしようもなく魅力的だった。奇跡の内容については、どれも思わずぐぐっと本の中に頭を掴んでずるずると引きずりこまれてしまいそうなほどだった。身近にいるかも知れない、そう思わせるキリスト候補者もいれば、突拍子も無いエピソードの中で台風のように荒れ狂う候補者もいる。彼らがどんな奇跡を呼び起こすかは本書を読んで確認してもらいたい。

 とにかく、真藤さんは人類未踏のことを次々とやってのけるタイプってことは間違いない。4つの新人賞を立て続けにとったことといい、映画に出て主人公を食ってしまう演技を見せていたことや、それにこの『バイブルDX』。僕は今後も真藤さんをどこかで見かけるたびに「すげぇなぁ、敵わないなぁ」と言うことになりそうだ。真藤さんはこれからもひょいっと何か想像もつかない凄いことを仕出かしてくれるだろう。そして僕はそのことを物凄く楽しみにしている。
(文=田辺青蛙)

tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ
「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。

バイブルDX

神って? 聖書って?

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「妖しき本棚」INDEX
【第8回】すべてが吹っ飛ぶ極上スプラッタ・ホラー漫画『血まみれスケバンチェーンソー』
【第7回】後味の悪さが尾を引く、究極のマゾヒズム世界『劇画 家畜人ヤプー』
【第6回】妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』
【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』
【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』
【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった”岡山”を読む『魔羅節』
【第2回】“大熊、人を喰ふ”史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』
【第1回】3本指、片輪車……封印された甘美なる”タブー”の世界『封印漫画大全』

最終更新:2010/06/17 19:49

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