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最下層で生きる子どもたちの生の声が鋭く心に突き刺さる『レンタルチャイルド』

rentachi.jpg『レンタルチャイルド』
(著:石井光太/新潮社)

 昨今、目覚しい発展ぶりを見せるインド。その一方で、生まれながらにして身分が決まってしまうカースト制度が、いまも根強く残ってる。

 とくに、ガンジーに”ハリジャン”(神の子)と名づけられた最下層の不可触民の地位は、一向に上がることはない。インドの街を歩けば必ず彼らに出会い、つきまとわれ、我々は狼狽することになる。そして、時にその手を振り払わなくてはならないほど、「金をくれ」としつこく迫られ、思い切って振り払ってみるが、その直後に自分の行為が悪魔のように思え、気持ちがどこまでも沈んでいく。

 この国を訪れる旅行者に有名な一説がある。

 それは親、あるいは、誰か大人が、路上で暮らす幼い子どもの体を意図的にナイフで切断し、見るからに悲惨な体にして物乞いをさせている、という説。信じられないような話ではあるが、インドには腕や足がない人、その両方がない人、目が見えないなどの障害を持った人間が尋常でなく多いのは、紛れもない事実だ。

 そんな非現実的なことが本当に起こりうるのだろうか。その疑問を自ら確かめようと、本書『レンタルチャイルド』の著者・石井光太氏が、インドの中でもとりわけ貧富の差が激しく、その噂をもっともよく耳にする、ムンバイの貧民街へと足を踏み入れた。

 石井氏は、「なぜ」に対する答えに完璧に納得できるまで、とことん追求する。わずかばかりの金と引き換えに、赤ん坊をレンタルして物乞いする女乞食、娼婦、心は女だが男性の性を持つヒジュラ、十代半ばでマフィアの真似事をする青年、そして本物のマフィアの住処へと、自分が納得できる話が訊ける人物に辿りつくまで、どこまでも奥へと突き進む。ときに、読んでいて吐き気がするほどの醜い”事実”が、相手の口から語られる。そして、彼らの本音をも吐き出させてしまう。

 本書の中には、ラジャという少年が出てくる。10年に渡る取材の中で、石井氏は訪れる先々で不思議と導かれるように彼に出会う。少年だった彼は、青年になり、当然、内面も変化していく。
 
 初めて出会ったとき、ラジャはまだ十代前半だった。彼自身が路上で暮らしながら、なんらかの事情で路上で暮らさなくてはいけなくなった同じ世代の子どもたちを助け、みんなから慕われるリーダーのような存在だった。だが、2年後訪れると、彼は街の浮浪少年を痛めつけて金を奪う、青年マフィアの頭となっていた。さらに5年後には、”死体乞食”と呼ばれる、死ぬ間際の人の写真を並べ、人々の同情を買い、遺体を腐敗するまで見世物にして、粗稼ぎをしていた。

 幼い頃からラジャを見てきた石井氏が、複雑な思いで話を聞くと、遺体を街中に引き回していたのは、以前からだったという。

「俺だってできることなら、仲間の遺体を腐敗させてまで金を稼ぎたくない。けど、マフィアに金を支払わなければ、目をつぶされたり、手足を切断されたりしたんだ。それを避けるためにはどんな手段をつかっても金をかき集めなければならなかった」

 さらに彼は、続ける。

「今だって同じだ。駅で稼いだ金だけでは仲間を養えないし、病気の妻に薬一つ買ってやれない。それをするには、昔と同じように死体乞食をしなければならねえ」

 ラジャは妻が病気で寝たきりになり、しゃべれなくなったとき、身を切られるような思いで、食べ物を食べさせるのをやめた。それは、仲間のために、いつ死ぬかも分からないのに、貴重な食べ物を無駄に出来ない、という理由だった。

 カースト制度の最下層として生まれ、生きていかなければならない。どう頑張っても、どうあがいても、上にあがることができない。この本の中には、今、この瞬間に生きている人間が吐き出す生の言葉であふれ、その一言ひとことが、心を鋭く突き刺してくる。

「普通に暮らしたい。普通の暮らしがしたい。けど、なぜか、できないの」
「どうして、なんだろう」
「どうしてなの? あたしが訊きたいよ。ねえ、どうして?」

 彼らの声は、どこまで届くのだろうか。
(文=上浦未来)

●石井光太(いしい・こうた)
1977年東京生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。国内外の文化・歴史・医療などをテーマに執筆。そのほか、テレビドキュメンタリーや写真発表、漫画原作なども手がける。主な著書に、アジア諸国の障害者や物乞いを追った『物乞う仏陀』(文集文庫)、イスラームの性や売春を描いた『神の棄てた裸体』(新潮文庫)、世界の貧困生活を百数十枚の写真と図で解説する『絶対貧困』(光文社)などがある。

レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち

落ちてるときには、読まない方がいいです。

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最終更新:2010/07/01 15:00

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