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映画『シュアリー・サムデイ』公開記念インタビュー

“歩く伝説”山本又一朗プロデューサー 小栗旬初監督作の舞台裏を存分に語る!(前編)

mataichi01.jpg映画を作ったからには必ずヒットさせなくてはいけない。
『太陽を盗んだ男』(79)をヒットに導けなかったことは、
山本又一朗プロデューサーのその後の映画人生に大きな影響を与えた。

 熱い。熱すぎる。日本映画界において、火傷しかねないほどの情熱を作品に注ぎ込む男がいる。メジャー映画らしからぬ、型破りの話題作を常に提供する”生きた伝説”、その名は山本又一朗プロデューサー。29歳にして日本映画史に残る大傑作『太陽を盗んだ男』(79)を放ち、コッポラとルーカスを製作総指揮に迎えた『Mishima』(85)はカンヌ映画祭で芸術貢献賞を受賞(ただし日本未公開)。スピリチュアルムービー『愛・旅立ち』(85)では、当時の大人気スター・近藤真彦と中森明菜を共演させるというミラクルキャスティングを実現させている。また、小栗旬が所属する芸能プロダクション「トライストーン・エンタテイメント」の代表でもあり、小栗旬を主演に据えた『クローズZERO』(07)シリーズのヒットは記憶に新しいところ。映画製作のスリリングさは、すでに『TAJOMARU』(09)の際に語ってもらったが、まだまだ”伝説”について聞きたいことが山ほどある。『シュアリー・サムデイ』の裏話と共に、山本又一朗プロデューサーの伝説の一部をお届けしよう。

──『シュアリー・サムデイ』は人気俳優・小栗旬が27歳で初監督に取り組んだことで話題を集めています。『クローズZERO』から『TAJOMARU』まで、働きに働いた事務所の稼ぎ頭へのご褒美としてGOサインを出したんでしょうか?

山本又一朗氏(以下、又一朗) いやいや、とんでもない! 映画はご褒美なんかで、やれるもんじゃありませんよ。この作品はね、何よりも小栗が「映画を作りたい」と昔からずっと抱いていた情熱が形になったものなんです。旬に初めて会ったのは、まだアイツが15歳のとき。16歳の頃に食事をしながら「将来、どんな役をやりたいんだ?」と聞いたら、「ボク、監督やりたいです」と答えたんですよ。俳優を志す者の夢としては、最初から他の者と違ってた。ま、それから7年間、旬は俳優業に勤しんだわけだけどね。

──『花より男子』(05/TBS系)で人気に火がつき、映画『クローズZERO』シリーズのヒット、さらに蜷川幸雄演出による舞台『カリギュラ』の成功で若手俳優の筆頭格に躍り出ました。

mataichi03.jpg小栗旬初監督作『シュアリー・サムデイ』。
高校を退学処分になった巧(小出恵介)たち
バカ仲間は、美女と3億円をめぐってヤクザ
と抗争を繰り広げる。小栗監督が演技力を認め
る若手俳優たちが集結した。
(c)2010「シュアリー・サムデイ」製作委員会

又一朗 24歳という年齢は、ひとつのターゲットだった。順調に伸びている旬を24歳で一人前の俳優に、世間にきちんと名前の知られる存在にしようと考えて照準を当てていたんです。『クローズZERO』は旬の俳優としての実力を知らしめるために周到に準備していたビッグプロジェクトでした。旬は父親が厳格な舞台監督で、また比較的若い頃から礼儀に厳しい俳優の世界に入ったこともあり、グレることはなかったわけだけど、アイツの内面には、何か抑えがたい熱いものがあるのは分かっていました。絶対、『クローズZERO』をやるにふさわしい奴だとね。それに蜷川さんの舞台を2作品、『お気に召すまま』と『カリギュラ』。どの一本をとってもヘビー級の作品群。さらにはテレビの連続ドラマ『花より男子2』(TBS系)、『花ざかりの君たちへ』(フジテレビ系)、『貧乏男子ボンビーメン』(日本テレビ系)の収録。だから07年から08年にかけての旬のスケジュールは大変過酷なものになってしまった。実は旬が16歳のときに映画監督をやりたいと言ったなんてことは、こっちもすっかり忘れてましたよ。俳優として一人前になるという目標に向かって打ち込んでいたので、それどころではなかったですね。ところが、アイツが23歳のときに、ロケなどでよく世話になっている広島のホテルのオーナーが、改装オープンしたんで遊びに来いと誘ってくれて、旬と新幹線に乗ったんです。乗るといきなり旬が「ボク、監督したいと思ってるんですけど……」と。「おぉ、確か昔そんなことを言ってたな」と、16歳の頃の旬の顔が浮かんだんですよ。「こいつ本気で考えていたのか……」とね。ボクは前日、深酒して寝てなかったので車中で寝る気でいたのに、旬が鞄から台本を出してきてね。何ページか抜けていたんだけど(笑)。それが武藤将吾が書いた『シュアリー・サムデイ』だった。睡眠不足なのに、面白くて最後まで一気に読んでしまった(笑)。

──小栗旬は「いつか必ず、映画製作を」と、『花ざかりの君たちへ』の若手脚本家・武藤将吾と密かに映画の企画を練っていた。

又一朗 武藤さんの脚本はジャンプ力があり、話の流れを平気で断ち切り、どんどん展開を飛ばす独特の面白さがある。当時同じ20歳代である2人の創作した脚本は、とても新鮮に感じられました。でも、だからといって23歳の売り出し中の俳優に即映画を任せるわけにはいきません。まず、小栗旬を俳優として押しも押されぬ存在にすることが先決でした。ある意味、映画監督をやると俳優としては横道に逸れることになる。24歳という節目を迎えて、まず俳優としてやらねばならない企画が目白押しだったんです。それで「旬、この脚本は面白い。いつかきっと映画化しよう。だけど、今じゃない。それよりこの脚本家をオレに紹介してくれ」と。そういう経緯で、小栗旬主演作として準備を進めていた『クローズZERO』の脚本家に武藤さんを選んだんです。『クローズZERO』の前後は、本当に旬も大変だったでしょう。それこそ寝る間もない1年間は、役者としていいことも嫌なこともたくさん味わったはず。演じるために思考する余裕も、台本を覚えるための最低限の時間もない中で、小栗旬は俳優として急速に成長した。またそういう状況を乗り切ったことで、実は監督をやるときに必要な”人間力”のようなものを身につけていったと思いますよ。だけど、あまりに多忙になりすぎて、旬のスケジュールは次々にやってくるオファーで流され気味になっていたんです。そんなある日、旬が「来年、この映画を撮れないから、もう諦めます」と言ってきた。なんで諦めると口にしたのかと、これはオレの推測なんだけど、若い頃の、旬自身まだ10代の気分の残っているうちに撮りたかったんじゃないかな。年齢を重ねてからでは空気感が損なわれてしまうと考えたんだろうね。旬は極めて自己内省力の強いタイプ。他人の言葉だけではなく、自分の口から発した言葉も、その後もずっと考えて検証したりするような性格の持ち主。その頃の旬は「最近のオレって、面白いですか?」なんて周囲に尋ねたりしていましたからね。そんな言葉が聞こえてきて、ひとつのいい区切りだなと感じたんですよ。「よし、映画やろうか」と。それで思い切って旬のスケジュールを監督をやるために空けたんです。

──初監督作品ながら全国186館での一斉公開。本人はもっとインディペンデント的な作品を考えていたんじゃないですか?

mataichi05.jpg

又一朗 それは感じました。もっと自主映画っぽいものを本人は考えていたようです。ボクとしても初めての監督作品なんだから、なるべくプレッシャーのかからないような形にしたいとは思っていたんです。でもね、旬の熱意に周囲が応じ、キャスティングをはじめ、予想以上に豪華なセットアップになってしまった(苦笑)。それに従って出資会社も次々と増えていったわけです。初監督である旬に100kgとは言わないけど、80kgくらいの重荷は背負わせた形になったかな。

──キャスティングは小栗監督が自ら?

又一朗 旬は一緒にやりたい俳優リストを用意していました。各事務所からお小言を受けながらも、旬から積極的に当たっていました。そりゃ、事務所を通さずに、俳優本人に直接出演のオファーが行くと、事務所側は立場がありません。そういうことが若干あったのは確かです(苦笑)。旬も出演依頼するつもりはなくても、現場で会った俳優仲間に「今度、こういう映画を考えているんだ」と話してしまうと、ついついみんな前のめりになります(笑)。その後、正式に事務所を通して話を進めたことで、結果的には旬が望んでいた配役ができたんじゃないですか。

──ベテラン舞台俳優の吉田鋼太郎がヤクザのボス役。要になる配役に小栗監督のこだわりを感じさせます。

又一朗 吉田さんのキャスティングは、旬がいちばん最初に決めたんです。もちろん、吉田さんの俳優としての力量にはなんら疑いはないのです。舞台で見せる実力はボクもよく知っています。しかしプロデューサーの立場から言うと、やはり宣伝しやすい有名俳優を……と考えてしまうわけです。重要な役なので、テレビや映画でもっと顔の知られているポピュラリティのある俳優にしてはどうかと進言しました。でも、やる気も実力もあっても、なかなかいい役が回ってこない。それこそうちの事務所が設立して間もない頃、ちっぽけで政治力もなく20歳前後まで、旬はかなりの悔しさを味わっていますよ。旬のそういう溜め込んでいた気持ちは、今回の配役に出ていると言えるでしょう。完成した映画を観れば「こんないい役者がいるんだ」と観客は驚くはずです。ただし、吉田鋼太郎さんという俳優はおそらく有名になることなどあまり興味がない人に見えます。舞台俳優としての今の環境がとても気に入ってように見える。でもね、今回の『シュアリー・サムデイ』は吉田鋼太郎さんにして本当に良かったと思います。ストーリー上のネックをね、吉田さんは持ち前の演技力でぴょーんと飛び越えてくれていますよ。

──小栗旬監督と俳優との信頼関係で作られた映画ということでしょうか。

又一朗 旬としては、これまで俳優である自分と監督との間に感じていた溝みたいなものを極力なくしたいという考えがあった。俳優たちの考えを受け入れて、俳優たちができるだけ自由にやれるような現場を目指していた。でも、そのことから問題が生じたんです。俳優の意見を聞いた旬が、撮影の予定を変更することがあって、前日に徹夜同然で準備をしていたスタッフたちから不満が噴出してしまった。旬は俳優たちが演じやすいようにアイデアを取り入れたことでの変更なんだけど、監督至上主義のスタッフにしてみれば「なんで俳優たちは監督の言う通りに動かないんだ」と。仲直りのために飲み会を開いたところ、飲み会の席がまっぷたつに割れてしまった(苦笑)。俳優の中には「これじゃあ、明日から現場に行けないよ」と言い出す者も出てきてね。

──『クローズZEROII』(09)のときも鈴蘭高校と鳳仙高校のキャストの間でケンカ寸前だったそうですが、その二の舞ですか?

又一朗 あぁ、『クローズZEROII』のときもあったね(笑)。お互いにいい映画にしたいという同じ想いなのに、双方の間に相違が生じてしまったわけです。誰が悪いとかじゃない。真面目に一生懸命になれば、思いもよらぬ摩擦が起きる。それで今度は飲み会に不参加だったオレが、翌日にもう一度、監督を中心に小出恵介や勝地涼らメーンの俳優陣を集めて焼肉を食いに行きました。彼らの話を聞いた上で、「よし、オレには、いかに君らが真剣にこの映画をよくしたいと一生懸命か、よく分かった。もちろん悪い奴はどこにもいない。スタッフだって同じ気持ちだよ。それはオレが保証する。明日からはみんな初日に戻ったつもりで現場に出ろよ。スタッフにはオレから話をしておくから」と話した。「でも、君たち、普段は監督とここまで気楽に接することはないだろ? 元々、俳優仲間の君たちの監督に対する接し方が、かなり気遣いしていたとしても、全てのスタッフにどう映るかは考えろよ」とだけ言いました。その夜、製作部に電話を入れて、「俳優たちも一生懸命だ。初日に戻ったつもりで明日から頼むよ。小栗旬という俳優出身の監督としての特性もある。俳優たちがやりやすい現場を作ろうと監督も一生懸命になっていることを理解してやって、うまく付き合ってくれ」と話したんです。旬も映画監督としていろんな状況を経験できたことは、俳優を続けていく上でも大変なプラスになったでしょう。
後編につづく/取材・文=長野辰次)

●『シュアリー・サムデイ』
プロデューサー/山本又一朗 監督/小栗旬 脚本/武藤将吾 音楽/菅野よう子 出演/小出恵介、勝地涼、綾野剛、鈴木亮平、ムロツヨシ、小西真奈美、妻夫木聡、遠藤憲一、岡村隆史、須賀貴匡、阿部力、笹野高史、モト冬樹、横田栄司、竹中直人、吉田鋼太郎、大竹しのぶ、原日出子、上戸彩、井上真央 配給/松竹 7月17日(土)より全国公開 <www.surely-someday.jp>

●やまもと・またいちろう
1947年鹿児島県出身。さいとう・たかを、小池一夫らに師事し、劇画原作の修行を積んだ後、映画・テレビ業界へ。映画プロデューサーとして、ジャック・ドゥミ監督を起用した実写版『ベルサイユのばら』(79)、長谷川和彦監督による日本映画史に残る金字塔的作品『太陽を盗んだ男』(79)、幽体離脱した中森明菜のロードムービー『愛・旅立ち』(85)、三島由紀夫の過激な生涯を緒形拳主演で映画化した『Mishima』(85)ほか数多くの話題作を製作。芸能プロダクション「トライストーン・エンタテイメント」の代表取締役でもあり、所属俳優・小栗旬を『あずみ』シリーズ(03、05)、『クローズZERO』シリーズ(07、09)でスター俳優へと育て上げた。

クローズZERO スタンダード・エディション

こんな高校じゃなくてよかった。

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最終更新:2010/08/01 15:16
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