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【元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第90回】

根拠のない安全神話はもううんざり! 永田町に問う「政治とは何か」

motoki0510.jpg「週刊現代」5月21日号

佳作
「福島の海を『第2の水俣』にするのか」
(「週刊現代」5月21日号)

佳作
「菅官邸を牛耳る『オバマGHQ』の密使」(「週刊ポスト」5月20日号)

佳作
「『放射能と妊婦・乳児・幼児』その危険性について」(「週刊現代」5月21日号)


 福島第一原発事故から2カ月もたたないのに、大本営発表の成果か、原発事故は順調に収束に向かっているかのような根拠のない安心感が、原発周辺地域を除いて広がっている。

 そこへ、菅直人首相が突然「浜岡原発全炉停止」と発言したから、よく言った、ようやくリーダーシップを発揮したという声も出始め、菅政権支持率が少し上がったという報道もあった。

 浜岡原発を止めるのは当然のことで、なぜ、中部電力社長が再稼働すると言った時に、すぐストップをかけなかったのか、その方が不思議である。

 連休中に重大な「事件」が起きた。一つは、5月2日に細野豪志補佐官が、原発事故が起きた当初、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータを公開しなかったことについて、「パニックを心配して公表しなかった」と認めたことだ。

 もう一つは、4月29日の内閣官房参与の辞任である。会見の席で小佐古敏荘東大大学院教授は涙ぐみながら、「年間20ミリシーベルトを、乳児・幼児・小学生に求めることは受け入れ難い」と発言した。

 必要があって、連休中に放射線量を測るモニタリングポストについて調べてみた。驚いたことにモニタリングポストが設置されているのは、ビルの屋上などかなり高いところが多い(福島、茨城などでは1.3~2メートルぐらいのところもあるようだ)。それも一日1時間程度。

 4月13~14日、私が原発の周辺30キロ、20キロ、10キロ圏内で測った放射線量は、飯舘村で地上約1メートルが毎時20マイクロシーベルト。だが、畑や小川のそばで測ると毎時200マイクロシーベルトを計測した。

 浪江町では、場所によって、道路上や畑で毎時600マイクロシーベルトを超えたところもある。このように、計測する高さによって放射線量は相当な開きがあるのだ。

 友人の元衆議院議員から聞いたところ、浪江町のモニタリングポストはどこに設置してあるのか、公表されていないという。

 これが指し示していることは明らかである。いま発表されている放射線量は、実際よりも低い数値が出る場所に”意図的”に設置したモニタリングポストが計測した数値だということだ。

 もっと言えば、ガイガーカウンター(正式名称はガイガー=ミュラー計数管)を実際に作っている私の友人の話では、低い数値を出すようにカウンターを作り替えることなど簡単にできるというのだ。

 いま発表されている数値への不信感。根拠のない数値で、しかも、20ミリシーベルト以内は安全だと言いくるめられ、放射線にさらされている小さな子どもたちと、その親たちの不安感はいかばかりであろう。中には100ミリシーベルトまで安全だと言い放つバカ学者がいるそうだが、いい加減にしたがいい。

 少なくとも放射能、それも内部被曝したら、何らかの健康被害が起こることは間違いないのだ。そうした危険から、住民を避難させ、安全・安心に暮らせるようにさせるのが政治ではないのか。まやかしの数値や、根拠のない安全性を百万遍語るより、大事なことを即刻やらなければ、政治家としてはもちろん人間としても失格である。

 つい、連休中にたまっていた腹膨るる思いが爆発してしまったが、今週の週刊誌評へ話を戻そう。残念ながら大賞に該当する記事は見当たらなかったので、今週は3本を佳作とした。

 まずは「現代」の記事。4月20日に「母乳調査・母子支援ネットワーク」(以下は母乳調査ネット)が発表し、それに慌てて厚労省が実施した母乳の放射性物質濃度の調査でも、福島・茨城・千葉の母親の母乳から高い濃度の放射線が検出された。

 母乳調査ネットの代表・村上喜久子氏によれば、最初に調査を行ったのは3月24~30日で、高い母親で36.3ベクレルのヨウ素131が検出されたという。事故後2週間もたってからにもかかわらず、これほど高いというのは、元が非常に高いレベルの汚染だったに違いない。

 内閣府原子力安全委員会専門委員を務めたことのある武田邦彦中部大学教授は、乳幼児は大人に比べて放射線の感度が3~10倍も高く、ガンの発生率も高くなることが分かっているとした上で、「たとえば福島県の空間放射線量が高い地域にお住まいの方ならば、空間からの放射線量だけで規制値いっぱいなのに、そこにたくさんの内部被曝が加わる。しかも大人より感度が高いわけですから、すべてが悪い方向にしかいかない。言いにくいことですが、それが現実なのです」と話す。

 胎児へのがんのリスクについては、「オックスフォード小児がん調査」によると、「10~20ミリシーベルトという低線量でも白血病や固形がんのリスクが増えるとされている」。

 ここで言っているように、ベント(原子炉格納容器の弁を開けて放射性物質を含む蒸気を排出する=筆者注)する前に、被曝の危険性を住民に知らせなかった東電や保安院の行為は犯罪的であり、その後も何の対策も取らず、ただ安全性を訴えるだけの政府も同罪であろう。

 次は「ポスト」の記事。アメリカから派遣された、身分も名前も明らかにされない「アドバイザー」が、官邸に専用の部屋を与えられ、福島第一原発1号機の水素爆発を防ぐために窒素封入や格納容器の水棺作戦をアドバイスしていたことは、新聞でも報じられた。

 しかもこの人物は当時、菅首相に代わって決裁権を握り、4月20日ごろに帰国したはずなのに、その後も官邸に顔を出しているというのだ。

 彼は「ただの原子力の専門家」ではなく、オバマ大統領からの命を受け、「日米関係を悪化させることがないように指導する」(米民主党ブレーン)人間なのだそうだ。

 「ポスト」はこういう状態をアメリカによる「第2の進駐」ではないかとし、震災復興よりも菅首相は、アメリカへの「貢ぎ物」を優先させたと批判する。

 震災直後の3月末に、年間1,880億円にも上る在日米軍への思いやり予算を、5年間にわたって負担する特別協定を国会承認したのがそれだ。

 大新聞は占領時代、GHQにすり寄り、彼らの批判など書かなかったが、震災後もそれに似て、米軍の「トモダチ作戦」を手放しで賞賛し、ビンラディン殺害も「首謀者の死は、大きな成果だ」(5月3日付読売社説)と礼賛報道一色ではないかと疑問を呈する。

 続いて「ポスト」の記事。今回ウィキリークスが暴露した日米外交の秘話でも分かるように、政治家も官僚もアメリカにおべっかを使い、多額の日本人の税金を貢ぎ物として差し出している。このままでは、日本の農業を根絶やしにすると言われているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を、国民にほとんど説明もしないまま締結するのも間近かもしれない。

 最後も「現代」の記事。冒頭、オランダ政府が公式に申し入れた海洋汚染調査を、外務省がひそかに拒絶していた外交文書があることから書き始めている。言うまでもなく福島第一原発から高濃度の放射能汚染水が海に垂れ流され続けているからである。同じようにグリーンピース・ジャパンの申し入れも拒絶した。

 そうしておいて、斑目春樹原子力安全委員長の言葉に代表される「放射性物質は海で希釈、拡散される。人が魚を食べてもまず心配はない」といい続けているが、これは最大の公害事件と言われる水俣病の時と同じ言い訳だと断じる。

「希釈、拡散されるといって汚染物質をどんどん流し続ける、現在の福島の状況は水俣とソックリです。構図もよく似ていて、問題を起こした大企業のバックに国がいる。大企業も国も、問題を隠そうとする。水俣の時もすぐに海洋の汚染調査をしておけば、これほど患者が増えることはなかったでしょう」(水俣病訴訟で患者側弁護団長を務めた千場茂勝弁護士)

 水口憲哉東京海洋大学名誉教授はこう言う。

「水産庁や国は本当はこう言いたいんですよ。『いま出るセシウムはチェルノブイリ由来のものだ』って。でもそう言うとまたややこしくなる。これまでチェルノブイリによる海洋汚染を隠してきましたから。『あんな遠いところでも影響があるのに、福島の放射能で汚染されないわけがない』と国民に思われたくないから、チェルノブイリの話ができないんですよ。でも1年後、高い数値が出てきたらこう言いだすと思います。『皆さん、チェルノブイリのときも知らずに食べてたんです。だから大丈夫ですよ!』と」

 この国の政治家も官僚も、そして多くの国民も、水俣の教訓に何も学んでいないのだ。そんな歴史に学ばない国が、これからも先進国として生き残っていくのは、誰が考えても難しいと思う。
(文=元木昌彦)

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか

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最終更新:2011/05/16 18:36
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