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ダニー・ボイルが描く「あきらめない」という心『127時間』

127_0619.jpg(c)2010 Twentieth Century Fox

 今週紹介する2本の映画は、実話を基にしたヒューマンドラマに、エイリアンが襲来するSFもの。ジャンルは全く異なるが、絶体絶命の状況で最後まで決して望みを捨てず困難に立ち向かう主人公の姿が、新鮮な驚きと勇気を与えてくれる作品だ。

 6月18日公開の『127時間』は、2008年の『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞8部門獲得の快挙を成し遂げたダニー・ボイル監督の最新作。登山家のアーロン(ジェームズ・フランコ)はある週末、ユタ州の広大な峡谷へ単身ロッククライミングに出かける。岩盤のすき間を軽快に移動していたその時、手をかけた岩もろとも谷底に落下、右手首から先を岩に挟まれてしまう。家族や職場仲間にも行く先を知らせず、誰一人通りそうにない谷間で、身動きが取れなくなったアーロン。救助ボランティアの経験から、あの手この手で脱出を試みる一方、生存のタイムリミットが迫りつつあることも悟っていた……。

 その期限”127時間”が迫るとき、アーロンはある決断をし、実行に移す。この行動も衝撃的ではあるが、本作の見どころはむしろ、主人公が死の恐怖と戦いながら、自分の人生と向き合い、生きることの意味を改めて問い直す過程にある。ボイル監督は、ともすると見た目に変化が乏しく単調な描写になるおそれがあった遭難の体験を、分割画面、フラッシュバックなどを効果的に使った巧みな構成で、見る者の感情を激しく揺さぶるスリリングな心理ドラマに仕立て上げた。

 アーロンが数少ない装備の1つであるビデオカメラを通して、大切な人たちに、また自分自身に向かって語りかけるとき、私たち観客は自然に感情移入していく。終盤までにはすっかり主人公と同一化しているので、その決断に伴う感覚も半端ではない。それでも、いや、そうした体験を実感として共有できるからこそ、ラストの感動も一層大きくなるのだろう。困難な状況でも絶対にあきらめない、過去の失敗も必ず取り返せるチャンスが来ることを信じ、ベストを尽くすこと――そんなメッセージが込められた本作は、震災後の日本で今まさに見られるべき映画とも言える。

 同じく6月18日公開のSFアクション『スカイライン 征服』は、『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』で監督デビューしたグレッグ&コリンのストラウス兄弟監督による長編第2作。ロサンゼルスの親友が所有するペントハウスに泊まったカップルのジャロッドとエレインは、未明に青白い光と不穏な音で目を覚ます。上空に突如出現した巨大宇宙船が強い光を発し、地上から人間たちを吸い上げていたのだ。さらに宇宙船から放たれた巨大なモンスターが、建物内にとどまる残りの人間たちを捕獲し始める。ジャロッドらは必死の脱出を試みるが……。

 ストラウス兄弟は、『デイ・アフター・トゥモロー』『2012』『アバター』など名だたる特撮映画に参加してきたVFX会社、ハイドラックスの共同設立者。本作の製作費は1000万ドルと、この手の映画にしては驚異的な低予算だが、本編を観るとCGのクオリティーの高さに再び驚かされる。特に、CGのアラが出やすい日中の屋外シーンでも、巨大な宇宙船やモンスターの実在感は圧倒的で、あたかも間近で目撃しているかのような錯覚と恐怖を覚えるほど。

 ハリウッド製アクション映画の定石から大きく逸脱する終盤の展開も、ある意味B級映画のトンデモ感に通じる魅力がある。SF好き、特撮ファンはもちろん、一風変わった映画を愛好するマニアにもぜひオススメしたい。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)

「127時間」作品情報
<http://eiga.com/movie/55846/>

「スカイライン 征服」作品情報
<http://eiga.com/movie/55857/>

トレインスポッティング

ダニーボイルの大出世作。

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最終更新:2013/09/12 18:17
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