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『嘘みたいな本当の話』発売記念イベントリポート

物語とは何か? 日本人とは何か? 内田樹と高橋源一郎が語る「この国のかたち」

R0017959.jpg震災後、その発言がこれまで以上に注目されている2人。

 インターネット上で募集したショートストーリーをまとめた『嘘みたいな本当の話』(イースト・プレス)が話題を呼んでいる。「戻ってくるはずがないのに、戻ってきたものの話」「犬と猫の話」「あとからぞっとした話」などさまざまなジャンルごとに応募された1,000文字以内の掌編作品が詰め込まれた本書。アメリカ人作家・ポール・オースターがラジオで作品を募集して大成功を収めた『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』の日本版だ。

 本書に収められた149にも及ぶ作品は、そのどれもが、誰もが人生で一度は経験があるような、ちょっと感動させられる話や、ひやっとした気持ちにさせるもの、くすっと笑わされてしまうものなど、日常の些細な出来事を追った物語ばかり。しかし、一般的な読者投稿本よりもレベルが一段上なのは、選者である内田樹と高橋源一郎による功績が大きいのだろう。

 そして、「ナショナル・ストーリー・プロジェクト(以下、NSP)」という名前の通り、本書から浮かび上がってくるのは日本人にとっての「物語観」だ。

■まるで『世間』が書いているみたい

R0018058.jpg高橋源一郎氏。

 この本の発売を記念して東京・築地本願寺で開催されたイベントに登場した内田樹氏と高橋源一郎氏。「嘘みたいな本当の話がたくさん起こってるけど……」と、現在の日本の状況を踏まえてスタートしたこのイベントでメインテーマとなったのは、「日本人にとっての物語とは何か」。
 「日本版はアメリカ版よりも『かわいい』んですよ」と語るのは高橋氏。「アメリカ版とは違い、年齢や住んでいる場所などの違いがありません。それに、どんなテーマでも深刻な話ではなくちょっといい話にまとまっちゃう。センスはいいんだけど深みがないんです」とやや不満げな表情を浮かべる。一方の内田氏も「物語がしっかりと定型に収まっていて破綻がない。定型を楽しむことにはとても優れているけど、荒々しさや生々しさ、手触りが抜け落ちてしまっているんですね。ほとんどの作品が視覚情報ばかりで、”痛み”や”におい”といった身体性が描かれていないんです」と厳しい意見を繰り出す。

 そして、小説家として、フランス文学研究者としての立場から真摯に「物語」に向き合ってきた彼らの視線が149編の作品から浮かび上がらせるのは「個人」を主張することのない日本人の姿だ。

 「『誰かと誰かが取り替え可能』であるみたいな作品がすごく多いんです。けれども、アメリカ人だったら恐怖を感じてしまうようなそんな物語も、日本人は定型の物語に収めてしまうから怖い話じゃなくなっちゃう。本音で語らなければならない場面でも、定型句で語ってしまうのと一緒です」と分析する内田氏。高橋氏は「個人が書いているというよりも、まるで『世間』が書いているみたいだね」と日本人の書く物語の特徴を看破する。

R0018000.jpg内田樹氏。

 ではどうして、日本人は「世間」が話すような「かわいい」物語を好むのだろうか? その原因を求める2人は、日本人と「信仰」との関係にまで話が及ぶ。

 「原因と結果の因果律がなくなっちゃうような不条理な話を日本人は書けないんです。アメリカ人は信仰があるから、意味の解体されたような不条理な世界を書くことができるんじゃないでしょうか。どんなに不条理な状況でも、一神教ならば神様に文句を言えばいい。けれども僕らは一神教じゃないから『何でこんなことをするんだ』って文句を言う相手がいないんです。比較宗教学的にもNSPは面白い資料になるんじゃないかな」(内田)

「アメリカ版とは違って、日本版には深刻な話が少ないんです。アメリカ人は神様と自分との関係で深刻になることはあるけど、自分自身に対して本当に深刻になることは少ない。だからアメリカ人は日本人から見れば深刻過ぎると思えるような物語を書けるんじゃないでしょうか」(高橋)

 最後に「人間は物語をよりどころにして生きているけれども、普通考えられているような『生きる意味を与える』とか『人生を支える』といった物語ばかりじゃなく、その核にはすごく変な物語を抱えているんだと思います」と、人間の抱える物語の奇妙さを語る内田氏。物語とは何か? そして日本人とは何か? 本書が綴る149編の作品たちは、震災を機に改めて見つめ直さなければならない「この国のかたち」をほんのりと浮かび上がらせているようだ。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])

●うちだ・たつる
1950年、東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。神戸女学院大学名誉教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。2006年に刊行した『私家版・ユダヤ文化論』(文藝春秋)で、第6回小林秀雄賞を受賞。

●たかはし・げんいちろう
1951年、広島県生まれ。横浜国立大学経済学部除籍。文芸評論家、作家。1981年、第4回群像新人長編小説賞優秀賞を受賞した『さようなら、ギャングたち』(講談社)で作家デビュー。1988年、『優雅で感傷的な日本野球』(河出書房新社/河出文庫)で第1回三島由紀夫賞を受賞。2002年、『日本文学盛衰史』(講談社/講談社文庫)で第13回伊藤整文学賞を受賞。2005年より明治学院大学国際学部教授。

嘘みたいな本当の話 [日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト

まさに、いま。

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ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉

アメリカ版。

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最終更新:2013/09/11 20:52
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