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『絶望の国の幸福な若者たち』の著者・古市憲寿氏インタビュー

この国を変えたいと思わせる「生きづらさ」の空虚な正体

IMG_7621_3.jpg著者の古市憲寿氏。

 約1年前、ピースボートとそれに乗船する若者を考察した『希望難民ご一行様 ピースボートと『承認の共同体』幻想』(光文社)という本が出版され、一部で注目を集めた社会学者の古市憲寿氏。『希望難民ご一行様』については、過去のインタビュー(※記事参照)をご覧いただきたい。そんな古市氏が今年9月に上梓した『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)では、格差社会で不幸だと思われている現代の20代の75%が、実は現在の生活に満足しているという”リアルな若者像”を伝えている。ワールドカップで盛り上がる渋谷の若者、ネット右翼のデモに集まる若者、ボランティア活動をする若者などに直接話を聞き、過去の若者論から現代の若者の実像までを、時に独特のアイロニーをもって論じたのが、『絶望の国の幸福な若者たち』だ。今回、デモに参加する若者の心境などを中心に話を聞いた。

――本書『絶望の国の幸福な若者たち』を出版した経緯は?

古市憲寿氏(以下、古市) 昨年、『希望難民ご一行様』というピースボートに乗る若者たちを分析した新書を出しました。これはもともと、修士論文で、コミュニティーと若者の関係を考察した本だったんですが、その後受けた取材では、「最近の若者」について聞かれることが多かったんです。「若者」全般のことなんて詳しく知らないので、うまく答えられない。そこで、正面から「若者論」と呼ばれるものを書いてみようと思ったんです。

――取材で現代の若者について聞かれることが多かったとはいえ、「若者論」に興味を持ったのはどうしてですか?

古市 もともと、「若者論」と呼ばれるような本は結構読んでいました。それは学術的な興味というより、自分たちの世代は大人からどう見られているのかといったことに興味があったからです。別に「若者論」をずっと続けるつもりはなくて、きっと自分が若者でなくなる10年後、20年後には若者になんて興味がなくなるかもしれません。

――古市さんのTwitterのつぶやきを見ていると、ずいぶんいろんなデモや場所に出かけているなと思っていたのですが、あれは本書のための取材だったんですか?

古市 取材というか趣味です。例えば、休みの日に友人とどこかへ行こうとなった時、遊園地ならいつでも行けるじゃないですか。だけど、この本でも書いたワールドカップで盛り上がる若者や尖閣諸島デモなんかは、その時だけのもの。さらに、年齢のことも考えています。たとえば、40歳になってもこういう場所に取材には行けますが、今回の本のように20代が20代の人に話を聞くというのとは意味合いが違う。そういう今しか見られないもの、今しかできないことを、時代の空気ごと閉じ込めながらできた本という感じですね。

――実際に、脱原発デモや保守系団体のデモ(外国人参政権や尖閣諸島問題に関するデモなど)に足を運んで、お話を聞かれていますが、そこに参加する若者の動機はどんなものなのでしょうか?

古市 多種多様ですね。ただ、特徴的なのは、過去の60年代の学生運動のデモに比べて、だいぶ穏やかで平和的だということです。過去の学生運動には、ヘルメットをかぶって、スクラムを組んで、衝突して、警察側も催涙ガスをまいたりと、暴力と暴力のぶつかり合いが部分的にでもあった。もちろんすべてがそうではないですけど。だけど、今のデモはそんな雰囲気もなく、ベビーカーを引いたお母さんでも参加できるようなカジュアルなものが多い。動機が多様であっても、気楽な気持ちで参加できるようになったのが大きいと思います。それは右派のデモでも左派のデモでも、大きくは違わないですね。

――ピースボートに乗船していた若者と保守系のデモに参加している若者の違いはありますか?

古市 それも特に大きな違いはないと思います。毎日の生活に閉塞感を感じていて居場所を探しているとか、今所属している場所での人間関係がうまくいっていないとか、大きくいうと小熊英二(社会学者、慶応義塾大学教授)さんの言う「現代的不幸」を抱えている人が、そのはけ口を求めて、そして社会や世界との接点を求める。それがピースボートの世界一周なのか、保守系のデモなのかは偶然の確率の問題だと思います。

――『希望難民ご一行様』では、乗船している若者を4つに分類(セカイ型、文化祭型、自分探し型、観光型)していましたが、デモに参加している若者もそのように分類できますか?

古市 ある集団に密着すれば不可能ではないと思いますが、4カ月間以上共同生活をするピースボートと違って、多くのデモや政治運動は月に1回程度集まるカジュアルなつながりです。その他はSNSで交流したり、サークル活動に近いですよね。だから「デモに参加する人」という形で類型化をしても意味がないと思います。

――ということは、先ほどのお話にも出ましたが、彼らにとって一種の居場所であると。

古市 もちろん本気でやっている人もいます。大学を卒業して、就職せずに、そこの保守系団体で機関紙を書いて、お金を稼いでいるような人とか。でもそういうコアな人は一部ですよね。基本的にデモって、暇な人のものですから。

――よく言われる”生きづらさ”との関係については?

古市 まあ、そもそも「生きづらい」人じゃないと社会に興味を持ちにくいですよね。友人関係も恋人関係もうまくいっているリア充だったら、別にこの社会を変える必要性なんて感じない。

――デモに参加する人で、他にはどんな人が見られますか?

古市 今、「生きづらさ」の話をしましたが、3.11後の脱原発デモはそれとは様相が違うと思います。だって、原発による被害って、関東以北だったら誰もが当事者になり得る、というリアリティーがある。自分の体は大丈夫か、子どもは大丈夫か。これって、あまり「生きづらさ」とは関係ない話ですよね。そもそも「生きづらさ」って甘い概念だなあと思います。「生きづらさ」という言葉は、震災後の「生きているだけいいでしょ」という現実の前に、ともすれば空虚になってしまった。

――ある種の豊かさが「生きづらさ」を成立させていたと?

古市 もちろん「生きづらさ」を経済的要素を織り込んだ概念として使う人もいましたけど、やはり「生きづらさ」という言葉って、どうしても心の問題だけに回収されてしまうような響きを持っている。結局、閉塞感や変わらない日常がつまらない程度の問題でしょ、という。

――そうすることで自分が満たされると?

古市 若者は格差社会における弱者だと言われています。だけど、特に大学に行けるくらいの階層だと、日本はなんて豊かな国なんだろうということに「後ろめたさ」を感じている若者が一定数いる。この数年で中堅大学以上の国際貢献サークルがものすごく増えました。その「後ろめたさ」は自分たちの足元ではなくて、カンボジアなどに向かってしまうことが多い。

――本書では保守派の人が読むとイラッとくることも書いていますが(明治時代に政府が日本と日本人を作ったという指摘や保守系の老人への揶揄など)、何か反応はありましたか?

古市 ある雑誌の編集長が怒っていたという話は聞きましたけど(笑)、直接的な反応は特にないですね。本当は、お互いにシャドーボクシングのように批判だけし合っていても仕方ないので、実際にお話をしてみたい方も多いんですけど。でも、僕の言っていることって、むしろナショナリストこそ真面目に考えなくちゃダメなことばかりですよ。日本の将来を考えるなら、少子化対策をしっかりやるべきだろとか、日本における良質な労働力を確保し続けるために若年層の雇用環境を充実させろとか。

――本書の末尾の方では、「国家の存続よりも、国家の歴史よりも、国家の名誉よりも、大切なのは一人ひとりがいかに生きられるか」は、すごくいいことを書いてあると思いましたが。

古市 自分でもいいこと言ったと思いましたけど(笑)、まあ、極論です。戦争に巻き込まれて死ぬよりは逃げ切った方がいい。自分の会社が潰れるよりは、日本が潰れ方がいい。自分の身近な人間関係のひとつさえもうまくマネジメントできないようでは、国家の幸せはあり得ない。だけど、脚注でも少し書きましたけど、革命直後の世界や無政府状態の国家ってろくなものではない。国家ってうまくコントロールする限りにおいて、だいぶよくできた仕組みなんです。ただ、それに翻弄され続けるなら、いっそなくてもいいよという、一種の逆ギレですね。

――本書をどんな人に読んでもらいたいですか?

古市 「若者」のことを分かりたいと思う人に読んでほしいです。特に、「近ごろの若者はけしからん」と簡単に言ってしまう人、もしくはそれに違和感を覚えている人。「若者はけしからん」なんてことは昔から言われていますし、たぶんそれはこれからも続いていくと思います。この本も、その意味で若者論を延命させるのに一役買ってしまうことになるかもしれません。でもそれでいいんだと思っています。この本がきっかけになって、何か会話が生まれればうれしいです。少なくとも「若者論」なるものを、相対化できる本だとは思っています。ところで、著者としては、実際に読んだいただいた方の批判なのか、それとも読まずにこういうインタビュー記事だけを読んで批判しているのかが一目瞭然なので、いろいろと楽しんでいます。
(構成=本多カツヒロ)

●ふるいち・のりとし
1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。有限会社ゼント執行役。専攻は社会学。近刊に『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください』(上野千鶴子氏との共著、光文社)など。

絶望の国の幸福な若者たち

けっこう幸せです。

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最終更新:2016/05/19 16:05
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