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"新宿タイガー"インタビュー

新宿の劇場に通い詰める名物男が語る2011年、本当に面白かった邦画・洋画

shinjukutiger02.jpg生きたアウトサイダーアート”新宿タイガー”。新聞配達の傍ら、新宿で公開された映画はほぼ全部観ている熱心な映画ファンだ。

 いろいろあり過ぎた2011年の日本。東日本大震災の影響もあり、日本映画界の年間興収は平年の2,000億円ラインを大きく割り込み、1,800億円台が予測されている。大ヒット作も生まれず、映画関係者には厳しい年の瀬となっている。こんなときこそ、明るいヒーローに登場してもらおう。新宿きっての名物男・新宿タイガーの出番である。新宿の歓楽街一帯に毎日、朝刊・夕刊を配り続けている日本一有名な新聞配達員。すさみがちな世の中を少しでも明るくしようと、夜店で買ったタイガーマスクのお面を被って配達を続け、はや40年となる。日々、新聞配達や集金に汗を流す一方、週末・祝日には新宿界隈の映画館をミニシアター、シネコン問わずハシゴする大変な映画マニアでもある。「年間何本観ているかは数えてないから分からないけど、新宿の映画館でロードショー公開される映画はほぼ観ている」「人気女優の舞台挨拶があるときは、朝刊を配り終えた後、花束を持って劇場に駆け付ける」というから、映画に注ぐ情熱はハンパない。新宿タイガーに2011年に観た映画を振り返ってもらった。

タイガー 日本もいろいろあったけど、オレもいろいろあったよ。2010年の暮れから起きた”タイガーマスク運動”のときは、マスコミからずいぶんコメントを求められたしね。それに、生まれて初めて映画のチラシ用のコメントを書いたんだよ。新宿武蔵野館で7月に公開された『スーパー!』。これは面白いなんてもんじゃなくて、スゴい映画だった。新宿武蔵野館には新聞を届けているんだけど、劇場スタッフから頼まれてね、公開前にDVDを見せてもらったんだ。『キック・アス』(10)みたいなヒーローもののコメディなんだけど、平凡な男が愛のためにスーパーな力を発揮するというストーリーがいいよ。世界は救えないけど、自分の愛する女性は体を張って守り抜くというね。身近な幸せから、まず守ろうってことだよね。愛なくして人生なし、ですよ。これって映画の永遠のテーマ。『美女と野獣』(46)の世界ですよ。命懸けでクスリ漬けになった自分の女房を助け出すんだけど、主人公は女房を拘束することなく自由にする。これぞ”無償の愛”。泣けるよ~。

super_movie000.jpg新宿タイガーにとって他人事ではない、等身大のヒーローが活躍する『スーパー!』。埋もれた傑作だ。

 『スーパー!』はDVDを借りて観たそうだが、いつもは自腹でチケットを購入してスクリーンで映画を楽しむ。映画館にきちんとチケット代を払うことが映画文化を守ることになるからだ。映画は女優で選ぶ、面白い映画は何度でも劇場に通う。それも客席の最前列で、映画の世界に没頭しながら観る。それが新宿タイガーの流儀である。

タイガー 今年、いちばん観たのはナタリー・ポートマンの『ブラック・スワン』。これは、来た来た来た! 8回観に行ったよ。そのくらいナタリー・ポートマンの演技にハマった。ナタリー・ポートマンは『レオン』(94)から出演作は全部観ているけど、『ブラック・スワン』は彼女のために書かれた脚本だし、彼女のために作られた映画だよ。演出家から「お前は黒鳥にはなれない」と言われたナタリー・ポートマンは、だんだん現実と幻覚の区別がつかなくなっていくの。それでライバルのダンサーと一緒にLSDやったり、超レズったりしちゃう。あのナタリー・ポートマンが、あそこまでサービスしてくれるんだからね、スゴいよ。オレは美女に会うために映画館に通ってるわけだけど、8回も観たのはこの1年ではこれだけだね。

shinjukutiger01.jpg新宿タイガーのエネルギー源は、映画を観ること。どんな映画でも面白い部分があるし、美女が出ていれば大満足だそうだ。

 『ブラック・スワン』の8回鑑賞には及ばないが、美女をこよなく愛する新宿タイガーをその気にさせた邦画は、吉高由里子主演の『婚前特急』と長澤まさみ、麻生久美子、仲里依紗、真木よう子が競演した『モテキ』。それぞれ4回劇場に通ったそうだ。ちなみに『モテキ』の大根仁監督とは昔から顔なじみとのこと。

タイガー 『モテキ』の主人公はコンピューターおたくで、『ソーシャル・ネットワーク』みたいなヤツなんだ。『ソーシャル・ネットワーク』も観たけど、美女が4人も出てるから『モテキ』のほうがいいよ(笑)。やっぱり長澤まさみちゃんだね。まさみちゃんのおっぱいを鷲づかみした森山未來がうらやましいよ~(笑)。麻生久美子ちゃんは三木聡監督の『インスタント沼』(09)も良かったし、真木よう子はお気に入りの女優。『源氏物語 千年の謎』では2役を演じていて、これも良かった。仲里依紗もいいよな。えっ、誰がいちばん好きかって? 4人とも大好きだよ~(笑)。男に夢を見せてくれる、サイコーの映画だよ。そうそう、大根監督が撮った深夜ドラマ『怪傑ライオン丸G』(06年、テレビ東京系)、『湯けむりスナイパー』(09年、テレビ東京系)に、オレ出演してるの。でもオレ、『モテキ』は大根監督の作品だと知らないで劇場に通ってたんだよ。監督よりも美女目当てだからさ(笑)。そうしたら劇場で大根監督から「タイガー、観にきてくれてありがとう!」って声を掛けられて。それで、大根監督が映画を撮ったと知ったんだ。いや本当、『モテキ』は大根監督の女優の撮り方がうまかったよね。長澤まさみちゃんの曲線美をうまく撮ってる。仁ちゃんのカメラ目線が、お客の喜ぶ目線と同じ。まさみちゃんは誰が撮ってもキレイだけど、『モテキ』のまさみちゃんはセクシー度No.1だね。

 正統派・長澤まさみと同じくらい、タイガーがぞっこんなのが個性派の吉高由里子だ。

konzen000.jpg4月に公開された吉高由里子主演コメディ『婚前特急』。震災のため試写やイベント中止になりながらもスマッシュヒット。

タイガー テアトル新宿で『婚前特急』の舞台挨拶があったんで、バラの花束を持っていったんだよ。劇場スタッフに頼んで間接的に渡したんだけど、ステージ上から吉高由里子ちゃん、「新宿タイガーさん♪」ってお礼の言葉を投げ掛けてくれたんだよ。もう、野生の虎の心臓がキュンキュンキュンだよ(笑)。彼女は『蛇にピアス』(08)も良かったけど、コメディがすごく合う。5人の男たちに5股掛ける小悪魔的なヒロインだけど、あの役を演じられるのは吉高由里子だけ。彼女のために作られた映画だね。この数年のコメディ映画で、あんなにノリのいい邦画はなかったんじゃないの。『デンデラ』にも出ていた白川和子の台詞、「あんたたち生きているうちに、思いっきりケンカやんなさい。死んだらケンカできないんだよ」も良かったしね。

 映画評などは事前に読まずに、野生の勘で面白そうな映画を選ぶ。アクション映画から社会派作品まで、幅広く観ているのだ。

タイガー メル・ギブソン主演のアクション映画『復讐捜査線』は、新宿ミラノの大スクリーンで観たよ。メル・ギブソンは『パッション』(04)、『アポカリプト』(06)と監督業が続いていたけど、『復讐捜査線』は久々にアクション俳優としての本領を発揮した力作。娘を殺された刑事がたった1人で、巨大企業に挑んでいくんだよ。新宿武蔵野館で公開したドニー・イェン主演の『イップ・マン 葉門』も迫力あったね。ドニー・イェンはブルース・リーの後継者か? いや、ブルース・リーは唯一無二のヒーロー。ブルース・リーの後継者には誰もなれないよ。でも、香港アクション映画の歴史を今に伝える”夢の後継者”とならドニー・イェンのことを呼んでいいかもしれない。『ラブ&ドラッグ』はアン・ハサウェイ目当てで観たけど、医療業界の内幕を描いたストーリーも面白かった。あと、社会派ドラマ『ウィンターズ・ボーン』も良かった。幼い弟と妹の面倒を看ながら、家を出た父親を少女が探すストーリー。主演のジェニファー・ローレンスが少女から大人へと変わっていく姿がすごくいいんだよ。社会派サスペンスだと、ナオミ・ワッツとショーン・ペン主演の『フェア・ゲーム』。イラク戦争時の米国政府の陰謀を暴いた実録もの。日本だと、なかなかこういう映画は作れない。自分の国の問題点も堂々と描くところがアメリカ映画の素晴らしさじゃないかな。表現の自由が認められている国なんだな~と感じるよ。

 この後も、園子温監督の『冷たい熱帯魚』『恋の罪』でテアトル新宿が大変な熱気に包まれていたこと、『恋する幼虫』(03)がテアトル新宿で公開された頃から観ていた井口昇監督の新作『電人ザボーガー』がシネコンで上映されていて感慨深かったこと、西島秀俊が殴られ屋を演じた『CUT』での顔面変形ぶりがスゴかったこと、アニメ『映画けいおん!』も面白かったこと……と映画の話題は2時間以上話していても尽きなかった。これから忘年会に行くというタイガーに、もうひとつ聞いておきたい質問があった。新聞配達員である新宿タイガーは、2011年3月12日の朝刊をどんな心持ちで配ったのだろうか。

タイガー 3月11日はね、ちょうどこれから夕刊を配ろうとしていたら、突然、目の前の景色がグラグラ揺れ出したから、めまいだなと最初は思ったんだ。そうしたら、ビルからどんどん人が出てきて、ようやく大地震だと分かった。新宿駅周辺は人が溢れ返っていて大変だったけど、何とかその日の夕刊は配り終わってね。次の日の朝刊も、少しだけ遅れたけど、しっかり配ったよ。新聞の一面を見て言葉を失ったけど、ああいうときこそ平常心が大切だと思ったね。

 雨の日も雪の日も、震災のときも、新宿タイガーとしての”正装”で新聞を配り続ける。新宿の虎は走ることをやめない。

タイガー どんなに暗いニュースでも、この格好で配ることで少しは明るくなるんじゃないの? 今の時代は自然災害に原発事故、テロ、政治家の離合集散……と何が起きるか分からない世の中。そんなときこそ、夢や希望を持つことが大事。オレはさ、新聞を配っているだけでなくて、街のみんなに愛やロマンも一緒に伝えて回っているんだよ。美女と映画がある限り、オレは元気。これからも、この街でずっと走り続けるよ。
(取材・文=長野辰次)

shinjukutiger03.jpg興が乗ると、アクロバット走行も見せてくれる。交通事故に一度遭っているだけに、くれぐれも気を付けてください。

●新宿タイガー
本名・原田吉郎。1948年長野県生まれ。17歳のときから新聞奨学生として新聞配達を始めた。大東文化大学を中退し、22歳のときに当時流行していたテレビアニメ『タイガーマスク』(1969~71年、日本テレビ系)のお面を被って新聞配達を始め、現在まで続けている。大根仁監督のテレビドラマ『怪傑ライオン丸G』『湯けむりスナイパー』の他に、800本以上のピンク映画に出演した俳優・久保新二の自伝映画『その男エロにつき、アデュー!久保新二伝』(10)にも出演。現在、独身。「毎日が自由恋愛で大変だよ」と笑う。


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最終更新:2013/09/10 10:36
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