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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.218

ジャッキー先生が体を張って教えてくれたこと。最後のアクション大作『ライジング・ドラゴン』

risingdragon3.jpgドリフの冒険コント的な展開が繰り広げられる南太平洋パート。
女たちよ、ケンカはひとまず休んで、まずは危機回避を優先しようじゃないか。

 JCはくどくどと自分の歴史観について説明することはしない。言葉で説明するよりも、ここは一発体を張ってみせましょう。十二支像の最後のひとつ龍の首を奪回するため、JCは噴火口上空での決死のスカイダイビングに挑む。いくら中国の至宝とはいえ、ブロンズ像を守るために自分の体を張るバカ。でもバカだからこそ正論が吐けるのだ。損得勘定で動く頭のいい人の発言よりも、映画バカの命を張ったデンジャラス・スタントにこそ世界中の人たちは釘づけとなる。パラシュートなしで空を飛ぶ映画バカ。成龍/ジェッキー・チェンが、本当に龍に成る瞬間がスクリーンに映し出される。

 ジャッキー先生には、もうひとつお礼が言いたい。ジャッキー先生のラストスタントは、日本の映像エンタメ文化に長年にわたって受け継がれてきた悲しい風習に「待った!」を掛けてくれたからだ。日本初の連続テレビアニメ『鉄腕アトム』(63年〜66年)の主人公・アトムは地球を守るために太陽へと飛び込んでいった。あまりにも悲しい最終回だった。人類を救うために主人公が人身御供となる―このパターンは、特撮ドラマ『ジャイアントロボ』(67年〜68年)や劇場アニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(78)へと受け継がれていく。太平洋戦争の悲劇を連想させるこのエンディングは、日本人の涙腺を強く刺激するものだろう。ハリウッドSF大作『アルマゲドン』(98)が大ヒットしたのみならず、キムタム主演の実写版『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10)でもこのパターンが踏襲されていたことに愕然とした。死ぬことを美化して、観客を泣かせることがそんなにも重要なのだろうか。悲しい歴史をいつまでも繰り返すのは、もういいんじゃないかい? ジャッキー先生は明るい笑顔で自身の記念アクション大作のエンディングを締めくくる。それも心憎いサプライズゲストを用意して。

 今、日本と中国をはじめ東アジア全体はそれぞれの国益をめぐってシビアな状況にあるけれど、スクリーンの中は別世界だ。映画の中で躍動するジャッキー・チェンのことは世界中のみんなが大好き。映画館は国境のない永世中立地帯であることを、ジャッキー先生は改めて教えてくれる。ありがとう、ジャッキー先生。これからも小粋なアクションと自慢の演技力にますます磨きが掛かることを楽しみにしています。
(文=長野辰次)

risingdragon4.jpg
『ライジング・ドラゴン』
製作・脚本・監督/ジャッキー・チェン 出演/ジャッキー チェン、クォン・サンウ、ジャン・ランシン、ヤオ・シントン、リアオ・ファン、ローラ・ワイスベッカー、オリバー・プラット 配給/角川映画 4月13日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー <http://www.rd12.jp/pc/>
(C)2012 Jackie & JJ International Limited, Huayi Brothers Media Corporation and Emperor Film Production Company Limited All rights reserved

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