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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.217

金髪美女への偏愛が傑作サイコホラーを生んだ!? 映画界最強のバディムービー『ヒッチコック』

Hitchcock1.jpg実在の連続殺人鬼エド・ゲインをモデルにした恐怖映画『サイコ』の撮影風景。
その舞台裏を『ヒッチコック』は再現していく。

 シャワーを浴びている裸の女性が殺人鬼のナイフによって斬り刻まれる―映画史上もっともショッキングなシーンで知られる『サイコ』(60)。ヒッチコック監督の刃物のように研ぎ澄まされた演出が冴え渡り、不朽の名作ホラーとして今なお人気を誇る。公開から50年以上経った今でも強烈なインパクトを放ち続けているのは、連続殺人鬼は実在したという衝撃だけではない。金髪女性への異常なまでの執着心、下着フェチ、覗き見趣味、入浴中の裸女への抑えがたい欲情、強度の潔癖性、人間の暗部を象徴するかのような底なし沼への憧憬、マザーコンプレックス、変身願望、警察への嫌悪感……。ヒッチコック自身が抱えていた内面的なネガティブ要素がすべて作品の中に吐き出され、それらが一編の美しい映画として結晶化したという奇跡に驚嘆させられる。ヒッチコックは人間なら誰しもが隠し持っている心の中の劣情を巧みに映画化してみせることで人気監督となりえた。映画監督という職業に就いてなければ、ヒッチコック自身が変質者の烙印を押されていたのではないか。アンソニー・ホプキンス&ヘレン・ミレン共演による実録映画『ヒッチコック』は、サイコサスペンスの原点『サイコ』がどのようにして生み出されたのかを描いていく。

 本作を監督したのは、これが劇映画デビュー作となるサーシャ・ガヴァシ。落ち目のヘビメタバンドの復活ツアーを追い掛けたドキュメンタリー『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』(09)の監督として注目を集めたイギリス人だ。脚本家としてスピルバーグ監督の『ターミナル』(04)、キアヌ・リーブス主演の『フェイク・クライム』(10)などのコメディタッチの作品に参加している。『アンヴィル!』も『ターミナル』『フェイク・クライム』もガヴァシ作品の主人公たちは境遇がよく似ている。周囲からは頭のおかしな変人、異邦人としか思われていないが、自分の信念に基づいて愚直に生きる男たちだ。『ヒッチコック』も同系統のものとなっている。周囲から理解されることはないが、自分の信じる美学に従い、最高傑作を生み出そうと四苦八苦する主人公のドラマである。

 『アンヴィル!』がギターのリップスとドラムのロブの腐れ縁の2人が組んだひとつのバンドだったように、ガヴァシ監督は本作の中で“ヒッチコック”はひとつのチームだったと解釈してみせる。ヒッチコックはひとりの監督ではなく、藤子不二雄のような2人でひとつの存在だったと。『見知らぬ乗客』(51)『裏窓』(54)『ハリーの災難』(55)『めまい』(58)などの傑作サスペンスを次々と放ったアルフレッド・ヒッチコックだが、ヒッチコックがヒッチコックでありえたのは、公私にわたるパートナーのアルマ・レヴィルがいたからこそ。アルフレッドが映画界入りする前から、アルマは助監督、脚本家、編集技師として活躍していた。むさ苦しい撮影所できびきびと働く小柄なアルマに新入りスタッフだったアルフレッドは惚れ、アルフレッドが監督に昇進するのを待ってから1926年に2人は結婚した。アルフレッドはそれまで母親との同居生活を続けていたが、結婚を機に独立。ここからチーム・ヒッチコックの快進撃が始まる。切り裂きジャックをモチーフにした初期の代表作『下宿人』(27)で独自のスタイルを確立させ、売れっ子監督への道を走り出した。

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