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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.225

幸せになるのが怖かった。スキャンダラス番長の懺悔録『ロマン・ポランスキー 初めての告白』

RomanPolanskiAFilmMemoir01.jpg1977年に起こした少女淫行事件を理由に、
スイスで軟禁状態となったロマン・ポランスキー監督。
スキャンダラスな生涯を赤裸々に振り返る。

 幸せになるのが怖かった。温かい家族に囲まれている自分が想像できなかった。不幸と長く付き合ってしまった人間は、いざ自分が幸せになるチャンスを手に入れても、怖じけづいてせっかくのチャンスを手放してしまう。ロマン・ポランスキー監督の半生は、あまりにも波瀾万丈すぎた。ユダヤ系ポーランド人であるポランスキーの少年時代、妊娠中だった母親はナチスの収容所送りとなり、そのまま帰ってこなかった。終戦後、再婚した父親とは疎遠になった。映画監督となったポランスキーは、ハリウッド進出作『ローズマリーの赤ちゃん』(68)で大成功を収めるが、最愛の妻シャロン・テートはカルト集団によって惨殺される。シャロンは妊娠8カ月だった。心のストッパーの壊れたポランスキーは13歳の少女との淫行事件を起こし、米国から欧州へと逃亡。『テス』(79)の主演女優ナスターシャ・キンスキーとの破局後、33歳年下の女優エマニュエル・セニエと結婚する。ようやく訪れたパリでの平穏な生活だったが、セニエが妊娠することをポランスキーは恐れた。せっかく積み重ねた幸せが、またジェンガのように壊れていくのではないか。天才監督は自分自身の主演する物語がハッピーエンドを迎えることに躊躇した。

 2009年、チューリヒ映画祭で生涯功労賞を受賞することになったポランスキーはスイスへと向かうが、空港に到着した直後にスイス警察に拘束される。1977年に起こした少女淫行事件のことを米国司法が蒸し返してきたのだ。ポランスキーは刑務所に9カ月間拘留された後、保釈金450万ドルを支払って釈放されたが、その後もスイスにある別宅での軟禁状態を余儀なくされた。『ロマン・ポランスキー 初めての告白』は別宅からの外出を禁じられたポランスキーを取材撮影したドキュメンタリー作品だ。長年のビジネスパートナーであるアンドリュー・ブラウンズバーグが聞き手となり、ポランスキーが経験してきたスキャンダラスな事件の数々を自分の口で語らせている。『戦場のピアニスト』(02)さながらの決死の逃亡劇を体験した少年時代、『ローズマリーの赤ちゃん』が悪魔崇拝を題材にしたオカルト映画だったことからシャロン・テート事件の真犯人はポランスキーではないかと疑われたこと、少女淫行事件ではマスコミが騒いだことで被害者少女のその後の実生活まで暴かれたこと……。ポランスキーが過去の淫行事件を認め、被害者親子に謝罪の手紙を送ったことも明かされる。多分、脚本家がドラマ化しようとしたら「こんな荒唐無稽なストーリー、ありえないから」とお蔵入りされるだろう。

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