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【バック・トゥ・ザ・80'S】Vol.14

文房具の限界に挑んだ、偉大なる恐竜「多面式筆箱」今昔物語

ssf05.jpg幻の十一面。接続部分には鉛筆削り、謎の収納スペースに加え、忘れ物チェック機能が搭載されている!

■予算とスペースの狭間で戦い続けた開発現場

 そんな多面式筆箱開発事情だが、常にコストとの戦いだったそうだ。

「ケースを作る分にはそんなに問題はないのですが、その中に何かを入れることでコストがかさむことはよくありました。消しゴムを入れると消しゴム代が上乗せされるし、鉛筆削りをつけるとその分のコストがかかる。筆箱としての価格が上がると、今度は小学生が学校に気軽に持っていける道具じゃなくなるから、その葛藤は常にありました」

 また、ビックリドッキリなギミックの開発にも、多大な予算を投入していたという。

「どういうアイデアを盛り込むか。それをどういうギミックで実現するかで毎回、四苦八苦していました。今はICチップで制御すればいいみたいな部分がありますが、当時はアナログな手段しかなかったので、スペース的にも予算的にもやれることにも限度はありましたね」

 といった具合に、まさにアナログ技術の玉手箱ともいえる多面式筆箱だが、十一面が試作段階で開発中止となった時点で進化の歴史は終わった。その理由が「ギミックを増やしすぎた結果、文房具を入れるスペースが小さくなってしまったから」というから本末転倒だ。

 しかし、筆箱の限られたスペースをフルに生かした無駄のない構造や、練り込まれたアイデア、ギミックこそ日本人の「ものづくり精神」の結晶である。物心ついた頃からプロフェッショナルたちのクリエイティブに接し、なおかつその進化の過程を目の当たりにできていた80年代の小学生たちは、非常に幸福な世代だったといえる。

■文房具からゲームへ……ホビーの変遷とともに消えていった多面式筆箱

 かねてより学校に玩具的なものを持ち込むことや、小学生が数千円するアイテムを学校に持ち込むことに対する反発も学校側やPTAにあったそうだが、当時の小学生男子はこぞって多面式筆箱を買い求め、買ってもらえない子はそんな級友を羨望のまなざしで見つめる日々を送っていた。しかし時代が平成に移り変わる頃になると、子どもたちの文房具に対する向き合い方にも変化が生まれ始めたと山本氏は語る。

「90年代くらいから、学校で玩具っぽいものでコミュニケーションを取る時代じゃなくなったんでしょうね。かつて文房具は玩具を持っていくことができない学校に持ち込める玩具代わりのツールでしたが、次第にその役割を携帯ゲームが担う形になったように感じます」

 事実、90年代に入ると、小学生の筆箱のトレンドはシンプルな構造のカンペンケースに移行。さらに現在は布製、ビニール製の筆入れが主流となっているようだ。多面式筆箱の生産自体は90年代後半まで続いていたそうだが、その頃になると開発はすでに終了しており、毎年新しい図柄を張り付けていくだけの展開となっていったという。

「まだ女子はかわいいキャラクターがついてると買ってくれたりするんですが、男子は完全に興味がゲームに移っちゃったみたいですね。文房具は学校や親が用意してくれるものでいいから、その分、必死にゲームを買ってもらうようになっていったと感じます」

 90年代には、スクウェア・エニックス(当時はエニックス)などから対戦ゲームを楽しめる「バトルえんぴつ」のような文房具が発売され大ヒットしていたが、これもゲーム要素があったからこそ売れたアイテムだったと考えると、やはり90年代には「機能性」や「ギミック」に対する小学生の興味は薄れていたのではないか、と推測できる。

 もちろん、少子化の問題もあるだろう。

 ともあれ、さまざまな要因が重なり、多面式筆箱の歴史は90年代末、ひっそりと幕を下ろした。現在もマチック筆入シリーズは生産されているが、両面のものが発売されているのみである。

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