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テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第42回

がさつな善意は鋭利な凶器に変わる――ついに本性を現した『ごちそうさん』の毒

 かつて『カーネーション』(2011年度下半期朝ドラ)で、何事にも前向きなヒロインの悪性を一言で批評したセリフがあった。「あんたの図太さは毒や!」と。まさに、め以子の前向きさも同じだ。和枝にとって、毒そのものだった。彼女の明るさは深い影を生んでいたのだ。

「いけずは私のほうだったんですね……知らないうちに、ずっと」

 『ごちそうさん』は、そんな朝ドラのヒロインの毒性を容赦なく突きつける。直後に起きた関東大震災。東京から避難してきた女性にもめ以子は前向きな言葉を投げかけ、結果的に彼女を追い詰めてしまう。人が弱っている時、ネガティブになって現実から逃げようとしている時に、め以子は「けど!」「でも!」と言って前向きになったほうがいいと諭す。もちろんそれは正論だ。しかし、弱った人間にとって、正論は栄養ではなく毒でしかない。がさつな善意は鋭利な凶器に変わる。それは料理も一緒だ。料理は、相手に対するおもてなしだ。万人が“おいしい”と言う料理なんてない。相手の立場や好みを考えてこそ、いい「料理」なのだ。

 今思えば、『ごちそうさん』は王道な展開を隠れ蓑に、最初からそのことを描いてきた。たとえば第1週でも、形式にこだわり技巧を凝らすばかりの若き日の父・大五(原田泰造)の料理に、母・イク(財前直見)は言う。

「押し付けがましいんだよ、あんたの料理は! 『どうだ、おいしいだろう? 俺の料理は本格的だろう』って。お客さんはね、あんたの腕前を拝みに来てるわけじゃないんだよ。ちょいとおいしいものを、いい気分で食べたいんだよ!」

 また、悠太郎の苦手な納豆を「おいしいですよ。人生を損してますよ!」と無理やり食べさせようとするめ以子に、大五は「しつけえんだよ!」と激怒した。「人にはそれぞれ、好みがあるんだよ。押しつけるんじゃないよ」と。

 絶望の淵に立っても人は腹が減る。そんな時、高級な食事を食べたいわけではない。善意の押し売りは、毒にしかならない。相手のことを考えて工夫した食べやすい料理こそ、必要なのだ。め以子は納豆を細かく刻んで山芋を加え、それを油揚げで巾着にして甘辛く仕立て、悠太郎が気づかぬうちに納豆嫌いを克服させた。

 『ごちそうさん』はそんな口当たりの良い料理のように、きめ細かい工夫が張り巡らされているドラマだ。程よい苦味を隠し味にして。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 18:02
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