日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 昼ドラ並みの愛憎劇『Empire』
ベテラン海外ドラマライター・幕田千宏の「すごドラ!」

昼ドラ並みの泥沼愛憎劇『Empire 成功の代償』をヒットに導いた、“ダイバーシティ問題”とは?

9歳で麻薬の運び屋となり、スラム街を生き抜いてきた主人公ルシウスが、そもそも清廉潔白とは無縁の人物。自身の音楽的才能と、犯罪スレスレどころか、まさしく犯罪に手を染めて音楽業界に巨大帝国を築き上げた彼が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で余命宣告を受けたところからドラマは始まる。彼は3人の息子のうち一人を後継者にしようとするが、長男アンドレはビジネス面では有能だが、音楽的才能がないため評価が低く、次男のジャマルは音楽的才能豊かだが、ゲイであることが許せず、三男ハキームは天才的なラップの才能を持つが、まだ若く未熟な問題児と、どれも決め手に欠ける状態。

 そこに登場するのが、かつてルシウスの罪をかぶって長期服役していた、元妻クッキーだ。彼女によって、ルシウスが築き上げた巨大帝国は、大きな嵐に巻き込まれる。このクッキーがとにかくパンチのある人物で、あっという間にドラマの主導権を握っていく。ド派手ファッションに身を包み、歯に衣着せぬ物言いとしたたかさで、ルシウスの前に立ちはだかる彼女の存在が、ドロ沼愛憎劇を加速させていく。ルシウスとクッキーのラブ/ヘイトな関係に、ルシウスの現恋人アニカも巻き込まれ、壮絶な女のバトルが繰り広げられる。次から次へと事件が起こり、ジェットコースターのように波乱が続く家族のドラマは、まさに昼メロ。

 そう、このドラマは、いわゆるプライムタイム・ソープ(夜版昼メロ)といわれる作品なのだ。どれほどアメリカン・ドラマのクオリティが上がったとしても、中毒性の高い昼メロは、やっぱり根強い人気。ソープ・ドラマはいかに(メロ)ドラマを引き起こすかが重要なので、強引な展開で無理やりドラマを生み出していく。それゆえ、ツッコミどころが多々あるのが面白さだ。ハイクオリティのサウンドを楽しむもよし、クッキーのド派手ファッションと名語録を楽しむもよし、ムチャクチャな愛憎劇にツッコミを入れるもよし、人種的問題だけでなく、楽しみ方においてもダイバーシティ化しているのがこのドラマの魅力なのだ。

ちなみに、クッキーを演じるタラジ・P・ヘンソンは、昨年ジャマル役のジャシー・スモレット、ハキーム役のブリシャー・グレイと共に来日したが、まんまクッキーそのものでかなりパワフルな人物。彼女は『Empire』に出演する前まで、犯罪ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』に出演していたが、こちらも見てみると、そのギャップに驚かされるだろう。

★このドラマにハマった人におすすめ!
『DALLAS/スキャンダル・シティ』
『glee/グリー』
『リベンジ』

●まくた・ちひろ
映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

最終更新:2016/10/13 18:00
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