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「あなたを殺したくて殺したわけではない……」増え続ける『介護殺人』の悲しい現実

 こんな悲劇があっていいのだろうか?

 ニュースを見ていると、しばしば目にする「介護殺人」の文字。介護への疲れから逃れるために、殺人へと発展してしまう、痛ましいこの種の事件。超高齢化社会を迎えた日本において、1年間に発生する介護殺人の件数は数十件に上るとみられており、もはやありきたりな事件のひとつとなってしまった。だが、毎日新聞大阪社会部取材班による書籍『介護殺人』(新潮社)を読めば、そんなニュースに立ち止まらざるを得なくなってしまうだろう。介護殺人事件の「加害者」たちを追った本書に描かれているのは、愛するがゆえに殺人にまで追い込まれてしまった、介護者/殺人者たちの苦悩である。

 木村茂(仮名/75)は2011年から、連れ添って45年あまりになる認知症の妻・幸子(71)の介護をしていた。物忘れや徘徊だけでなく、まるで人格が変わってしまったように怒りっぽくなり「ご飯の準備せえ!」と茂を怒鳴りつける幸子。それにもかかわらず、入浴、着替え、トイレまでも、茂がひとりで懸命に介護し続けた。「お前は誰や!!」と言われ、汚い言葉を投げかけられようとも、うんうんとうなずきながら、茂は幸子の背中をさすり続けていた。

 12年夏になると、幸子はあまり眠らなくなった。夜中に目を覚まし、大声で茂をなじる声に、近所からも苦情が届くようになる。さらに、幸子は、毎晩のように「どこかへ出かけたい」と駄々をこね、茂はそのたびに彼女をドライブへ連れ出した。昼は家事、夜はドライブという毎日に追われ、茂の精神は疲弊していく。施設に頼ろうとも考えたが、介護保険施設にはまったく空きがなく、民間の高級老人ホームの入居費用は年金暮らしの夫婦に払える金額ではない。茂は「幸子を介護できるのは自分しかいない」と言い聞かせた。

 けれども、もう限界だった。

 その夏のある夜、幸子から激しくなじられ続けた茂は、幸子の首をタオルで絞めて殺害。自身も死のうと思って睡眠薬を飲んだが、死にきれなかった……。


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