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女と自由との揺らぎ──『私だってするんです』小谷真倫の探求「自分の凡庸に負けたんだ……」

 神楽坂の早稲田通りに面した『くらげバンチ』のオフィスで、佐藤はいつものように業務をこなしていた。担当するマンガ家との打ち合わせ。原稿の進行の確認。いくつかの仕事をこなした後、持ち込み原稿を読む。封筒で送られてきたのは、最近は減った手描きの原稿。数作品あった中の、ひとつを読んで佐藤は思った。

「これは、モノになるかもしれない」

 マンガ家になりたいといっても、なれるのはホンの一握り。デビューしてからも、マンガ家として続けていくことができるのは、さらに一握り。すでに2冊の単行本を出した後、数年間の沈黙が続いているマンガ家。そんな人物の作品が、どんなものなのか。海の物とも山の物ともつかない。ともすれば、一度はデビューしたという安っぽいプライドは、妙な癖のついた我の強さばかりを肥大化させがち。でも、その作品は、佐藤の心臓に突き刺さった。

「女性のオナニーについて、女性自身が描いている」

 男性にとっては謎の部分。エロマンガなんかで、男性が好むスタイルで描かれることはあっても、その実像をする術もない。それを知ることができたら、面白いじゃないか。

 すぐに佐藤は、原稿の主……小谷に連絡をした。

「これ、すごく面白いと思います」

 そこから連載開始までは、1年あまり。何度も打ち合わせと描き直しが続いた。テーマには確固たるものがある。それを、エンターテインメントとして、どのように見せるか。『くらげバンチ』は、Webという特性も生かして実験的な作品が並ぶ。一種特異な作品を求めてアクセスしてくる読者に向けたエンターテインメントとは何かを探った。

 これまで、一貫して手描きで原稿を描いてきた小谷にとって、Webへの戸惑いもあった。自身もマンガは紙で読むことに慣れ親しんできた小谷。画面をスクロールしながら読むWebのスタイルは、自分の作風には向いていないのではないかという恐れもあった。

 打ち合わせを重ねて、ようやく連載が始まった。始まってしまうと、恐れは新たな発見と好奇心へと転換していった。紙媒体にはない、読者からのダイレクトな反応。もちろん、いい話ばかりではない。「悪口を言われるとツラくて創作に支障が出たり、匿名でしか好き勝手言えないような奴は肥溜めに落ちろと思うことがあります」という赤黒の感情も湧き出す。けれども、紙媒体とは違う読者の直接的すぎる反応は、小谷の創作意欲をさらに高めている。単純に「共感」されることに喜ぶのではない。読者自身がコメントの中で書き記す読者自身の行為。それが、小谷の探究心の新しいスイッチをオンにするのだ。

「……自分のリアルな恋愛とかセックスが充実していたら、生まれなかった作品だと思っています。そういうものに自信がないから、こういう性的な作品が描けるんだと思っているんです」

 これまで、付き合った男に話が及ぶと小谷は、少し笑いながらいった。

「まあ、そうですね。悲しいっていうか。ちょっと、乱暴だったっていうか……」

 そうした、人には言えない経験。暖かい家庭を築くこととはかけ離れた体験。それを、マンガ家の芸の糧として誇るわけではない。それは、広く世間から見れば恥ずかしいことかもしれないが、そのことをも糧にしていく性を持つ自分を、徹頭徹尾客観視している。その観察眼は、内面だけではなく周囲にも向けられている。オナニーを通じて明らかになるさまざまな性癖。そして、個人の日常。興味を惹かれて、昂ぶりは止まらない。でも、決して自分にはないものがある。上から見て、分析したり、自分のほうが優れているという気持ちを巧妙に隠しながら、見下したような同情をするような気持ちのようなものは、どこにもない。

「みんなそれぞれ違うところを『こーいう違いもあるのか』と楽しみ合えればと思います」

 そして、小谷はまた笑う。
(取材・文=昼間たかし)

最終更新:2017/12/08 11:46
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