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右手の喪失、原爆投下……悲しくてやりきれない。神演技が続出した『この世界の片隅に』第7話

現代篇なしでも違和感ないが、予告に大物女優!! すずが闇墜ちする『この世界の片隅に』第4話の画像1
TBS系『この世界の片隅に』番組公式サイトより

「昭和20年8月広島…失った笑顔、絶望の先」。アジア大会中継のため、2週間ぶりのオンエアとなった『この世界の片隅に』(TBS系)。新聞のラテ欄に記された第7話のサブタイトルを読むだけで、つらいものがあります。広島市から呉市へと嫁いだ主人公すずは、懸命に築き上げた幸せな居場所を戦争で木っ端みじんにされてしまいます。こうの史代原作コミックの実写化『このせか』は、すずが遭遇した絶望とその先にあるものをどう描くのでしょうか。第7話を振り返りたいと思います。

(前回までのレビューはこちらから)

 第7話は衝撃的だった前回のエンディングから始まります。呉市を襲った空襲の直撃を逃れたすず(松本穂香)と義理の姪・晴美(稲垣来泉)でしたが、晴美のすぐ後ろには不発弾が埋まっていました。すずが「危ないッ!」と晴美の手を引いた瞬間に、すずと晴美は大きな白い光に呑み込まれてしまいます。

 どれだけの時間が流れたのでしょう。すずが目を覚ますと、そこはすずが嫁入りした北條家でした。すずは全身を包帯で覆われ、包帯が巻かれた右手はなぜか肘から先がありません。そして、肝心の晴美の姿がどこにもないではありませんか。仏壇には真新しい白い布で包まれた箱が置かれていました。幼い晴美を守ってあげられなかったことを、すずは悔やみます。晴美の母親・径子(尾野真千子)は髪を振り乱して「人殺し! 返して、晴美を!」と責めますが、すずは「ごめんなさい……」と消え入るような声で答えるのが精一杯です。

 晴美を救えなかったことに加え、すずは右手を失ったことで唯一の取り柄だった絵を描くこともできなくなりました。台所では、足が不自由で寝込んでいたはずの義母のサン(伊藤蘭)がせっせと働いています。嫁としての仕事まで失い、北條家での居場所をすっかり失ったようにすずには感じられるのでした。

 第6話からあまりにもしんどいシーンが続きますが、こんなときこそ伊藤沙莉演じる幸子の出番です。ご近所の幸子と志野(土村芳)が見舞いに訪れ、いつも3人一緒に過ごした段々畑へとすずを誘い出します。「何でうちも死なんじゃったんやろうか」と胸の内を語るすず。生き残った者が犠牲者に対して感じてしまう罪悪感、サバイバーズ・ギルトにすずは苦しんでいました。

 すずに掛ける言葉の見つからない幸子は、ふいにすずの頭を叩きます。何度も何度も叩きます。驚くすずに対し、「悔しかったら、殴り返してみんさいよ。右手がないなら左手で殴り返しゃええ」とメンチを切る幸子。幸子の優しさに触れたすずは、幸子を左手で殴り返します。その度に幸子は「痛うない! 全然痛うない!」と繰り返します。幸子の頭がゴツンゴツンと叩かれる音が画面に響き渡ります。幸子が感じている痛みは、すずの心の痛みです。吐き出すことのできない感情を溜め込んでいた親友を思い遣る、武骨だけど温かい幸子の人柄が伝わってきます。生身の俳優が演じる実写版ならではのオリジナルシーンでした。

 幸子は原作にも劇場アニメ版にも登場しない、オリジナルキャラクターです。このシーンのために伊藤沙莉はキャスティングされたと言っても過言ではないでしょう。伊藤沙莉演じる明るい幸子がいて、本当に良かった。彼女がいなければ、実写版『このせか』は底知れぬ暗さにずっと覆われ続けたままだったはずです。第6話で出会った成瀬(篠原篤)とぜひ幸せになってほしいと思います。

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