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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.500

価値観の違い、世代間のギャップを楽しみたい!! 三木聡監督のオリジナル作『音量を上げろタコ!』

三木聡監督によるロックコメディ『音量を上げろタコ!』。HYDE、あいみょんらが楽曲提供しているのも話題。

 この世界はほとんどがムダなものでできている。人間の一生もほとんどはムダな時間で占められている。そんなムダなものやムダな時間を愛することができれば、人生はとても楽しい。ブレーンをつとめた『トリビアの泉』(フジテレビ系)で役に立たない雑学ブームを、時効を過ぎた犯罪を趣味で解決する警察官を主人公にした『時効警察』(テレビ朝日系)でゆるゆるギャグブームを起こした三木聡監督は、ムダなものを愛する天才だ。そんな異能の天才・三木監督にとって『インスタント沼』(09)以来となる9年ぶりのオリジナル新作が、『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』である。ムダなもの、くだらないものが溢れ返った沼の中から、観る人によっては絵文字のようなメッセージがひょっこりと浮かび上がるおかしなコメディとなっている。

 長年にわたってコメディの仕事を続けることはとても難しい。お笑い芸人やギャグ漫画家の多くは一瞬のブームによって消費され尽くし、ブームが過ぎ去った後は忘れ去られた存在となってしまう。オリジナル性が尊重されない現代のコピー社会を風刺した『俺俺』(13)の公開時に、三木監督をインタビューした際の言葉が印象に残っている。

「コメディをずっと書き続けていると、どうしてもお客さんとの間にズレを生じていくんです。多分、僕の持っている感性と視聴者が期待するものとがいちばん合っていたのが『時効警察』の頃でしょう。僕はお笑いのことを毎日考え続けるわけですが、視聴者が番組を観て笑うのは週に一度だけ。次第に距離が開いてしまうものなんです」

 お笑いとは、マジメに考えれば考えるほどズレが生じてしまうという、何ともアンビバレントな世界だ。そして、一度生じたズレを修正するのは、これまた至難の技となる。さらには世代間による価値観の相違も生まれてくる。今回の三木監督は、バンドでいうところのベース&ドラムにあたるお笑いリズム隊に、松尾スズキ、ふせえり、麻生久美子、岩松了ら三木組の常連キャストを配して、きっちりとステージを整えた。その上で、メインキャストには三木作品には初登場となる阿部サダヲと吉岡里帆をブッキング。従来の小ネタギャグを散りばめた三木ワールドを再構築しつつ、新しいメインキャストを迎えることで新鮮な化学反応が起きることを狙っている。

三木聡作品のミューズを務めてきた麻生久美子がお笑い担当として登板。本人的にはさぞうれしかったに違いない。

 麻生久美子が主演した『インスタント沼』は、三木監督が少年時代を過ごした横浜市周辺を舞台にしていた。三木監督の実家近くは、かつて沼が多かったらしい。埋め立てによって失われた原風景を、映画の中で甦らせようとする試みだった。同じくオリジナル作である『音量を上げろタコ!』も、三木監督が自身のアイデンティティーを見つめ直したものとなっている。アルバイトがきっかけで放送作家の道を歩むようになった三木監督だが、大学時代の三木監督はバンド活動に明け暮れていた。音楽は三木監督にとって表現活動の原体験だった。音楽からお笑いへとシフトチェンジしていった経緯がある。三木監督にとって、『音量を上げろタコ!』は音楽とコメディを融合させた待望の世界なのだ。そんな三木ワールドに、今回飛び込むことになるのがただいま絶賛売り出し中の若手女優・吉岡里帆であり、そのメンター役を務めるのがパンクバンド「グループ魂」でも活躍する阿部サダヲとなる。

 吉岡里帆演じるストリートミュージシャンのふうかは、恐ろしく声が小さい。吉祥寺の駅前でバンドメンバーを従えて歌っていても、通行人がケータイでしゃべっている声のほうがデカく、まばらに集まったリスナーたちの耳にはまるで彼女の歌声は届かない。自分に自信が持てずにいるふうかに対し、恋人兼バンドリーダーの彼氏は牛丼屋で別れを告げる。ファストフード店で味わうハートブレイクほど、心の糧にならないものはない。


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