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ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

正統派アイドルから大人の女優へ――真野恵里菜”ハロプロ出身なのに”成功したワケ

 本作は、超能力を持った人間の犯罪を描いた異色の刑事ドラマで、真野が演じたのは人の心を読むことができる美少女占い師・サトリ。超能力を使う際の決めポーズや派手な衣装こそアイドル的だが、キャラクターとしては悪役で、外見とは裏腹のえげつないセリフも多かった。

 次に注目されたのは、お色気テイストの超能力ドラマ『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)だろう。本作で真野が演じたのは、見た目は清純だが、心の中は腹黒い女子高生・浅見紗英。こちらはサトリとは逆に、主人公の超能力者・鴨川嘉郎(染谷将太)に心の中を読まれる場面が多いのだが、そこで吐露する心の中のセリフが「鴨川君かぁ、絶対、私でオナニーしてるよなぁ」などの、どぎついものばかり。また、(鴨川の妄想の中で)エロティックなポーズを取ったり、パンチラシーンもある。アイドルとしての彼女を知っていれば知っているほど、そのギャップに衝撃を受けただろう。

 清純で幼いルックスだが、腹黒い内面を抱えた女性を立て続けに演じるというアイドル時代のイメージを逆手に取った配役で、真野の評価は一気に高まった。ともすれば、アイドル時代のファンを全員敵に回しかねない役柄だったが、この大胆な配役があったからこそ、真野は女優としての第一歩が踏み出せたのだ。

 その後、16年にはNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で、主人公を厳しく指導する会社の先輩を好演、同年に放送された『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)では、元ヤンキーのシングルマザーを演じた。どちらも、その年を代表するヒット作だが、それまでの役柄とは違う、大人の女性を演じたことで、演技に大きな広がりが生まれた。

 今年はFODとdTVで配信された野島伸司脚本のドラマ『彼氏をローンで買いました』で、主演を務めた。ネットで人身売買されていた男をローンで購入するという過激な導入部から始まるラブコメで、真野が演じたのは専業主婦に憧れを持つ大手企業の受付嬢。結婚を控えた20代の女性が抱える不安を見事に演じており、大人の女性も完全に演じられることを証明した。

 現在、真野は27歳。7月にはプロサッカー選手の柴崎岳と結婚し、現在はスペインを生活の拠点としている。その意味で、完全に脱アイドルを果たした大人の女優といえるのだが、そんな真野が9月から出演しているのが、有料動画配信サイト・パラビで配信されている『SPECサーガ黎明篇「サトリの恋」』だ。

 本作は、『SPEC』で真野が演じたサトリの高校時代を描いた作品。真野はメガネをかけたあか抜けない高校生になりきっており、当時以上に幼く見えるのだから、彼女の振り幅の広さには驚かされる。

 何より、今回は主人公である。これは、真野が名実ともに女優として大きく成長したことの証明だといえよう。

(文=成馬零一)

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2018/10/09 14:00
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