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子を育てながら新幹線の運転士に──働くレールウーマンの実情に迫った『それゆけ! 女性鉄道員2』

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『それゆけ!女性鉄道員2 』(イカロス出版)

 男だけの職場というのはどうにもむさくるしいもので、飲み会に行ってもパチンコと出会い系アプリの話に終始し、若手はポチポチとスマホゲームなどやり出す始末。昔、『G〇〇dwill』で引越屋に派遣された時、ユニフォームのチノパンを忘れた旨を社員の方に告げると、彼はおもむろに履いていたチノパンを脱ぎ始め、「これ履け」と私の前に差し出しました。さっきまで他人の股間を包んでいたホカホカのチノパンを履くのには、いささか抵抗がありましたが、男だけの職場では致し方ありません。泣く泣く生温かいチノパンを履いたことを覚えています。

 ジェンダーフリーの時代とはいえ、やはり女性がいると場が華やぐもの。『それゆけ! 女性鉄道員2』(イカロス出版)は女性鉄道員に密着取材したムック本だ。JR西日本、都交通局、京王電鉄など11社局23人の女性鉄道員にインタビューし、写真付きで紹介している。一口に女性鉄道員といっても、車掌、運転士、駅員、アテンダント、オペレーター、整備士、駅舎を作る建築技術者など、その業務は多種多様。フレッシュな新人さんもキャリア20年のベテランさんも、制服に身を包んで敬礼する様はとてもかっこいい。鉄道員の白手袋も優雅で、紺色の制服によく映えます。

 かつては一部の職種を除き、女性の深夜業が禁止されていたため、女性の運転士は存在しなかったが、1999年に労働基準法が改正され、2000年に女性初の在来線運転士が、03年にはJR西日本で女性初の新幹線運転士が誕生した。現在、JR西日本では470人の新幹線運転士のうち、14人が女性運転士(16年時)で、本書P23に登場する金澤夏緒理さん(大阪新幹線運転所所属)も数少ない女性新幹線運転士の一人だ。

「産休前に所属していた広島新幹線運転所では『こだま』を担当することが多かったので、『のぞみ』よりもなんとなく落ち着きます笑)。速度計算にしても次の駅に着いたらそこで一旦終わりだし、停車時間も長いので気分的には楽かもしれません。『のぞみ』は計算しても距離が長いですし、停車時間もせいぜい1、2分ですからずっと気を張り詰めたたまま。新大阪から博多まで運転すると精神的にはヘトヘトになります」(本書P24)と、運転中はずっと頭の中で速度計算を続けているのだというから大変だ。産休・育休を経て、新幹線運転士であるとともに一児の母である金澤さんは「子供を育てながら、新幹線の運転士。それができるんだよというひとつの目安になれればいいなと思っています」(本書P25)と語っている。

 他にも、開業してまもない北陸新幹線の全般検査を務める定者淳子さん(JR西日本・白山総合車両所)や、京王電鉄の運輸指令所で指令掛を務める中島藍さん(京王電鉄)、都電運転手として都電荒川線を走らせる入社2年目の高嶋友梨さん(都交通局)など、興味深い話は尽きない。運輸指令所なんて、NASAの管制室みたいな雰囲気でワクワクします。

 女装する東大教授・安富歩はかつて「日本の男社会はホモマゾ社会」と立場主義の息苦しさを論じたが、鉄道業界のように、かつて男の職場といわれていた場所に女性が進出していくことが、日本のホモマゾ男社会を変えていくきっかけになるのではないだろうか。ホモソーシャルな職場で、生温かいチノパンを履かせられることのない社会の到来を切に願っている。
(文=平野遼)

最終更新:2019/02/08 17:00
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