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「治療」と称した監禁・拘束、薬漬け……精神医療の現実に迫るノンフィクション『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』

なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』(講談社)

 日本では現在、約400万人もの人々が心の不調で通院している。この数は国民のおよそ30人に1人。みなさんの周りにも、1人や2人はいるのではないだろうか?

『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』(講談社)は、「うつ病かも」と思って病院へと行ったばかりに、監禁・拘束、薬漬けにされ、正気を失い、人生を台無しにしてしまった人がいる――そんな精神医療の惨状を浮き彫りにする衝撃のノンフィクションだ。著者は医療ジャーナリストの佐藤光展氏。およそ15年間、読売新聞本社の医療部に在籍し、2018年1月に「書きたいことを書く」ために早期退職し、執筆活動を続けている。

 本書には、これが現代なのかと思うほど現実離れしている治療法が次々と出てくる。その最たるものが「拘束治療」だ。年間18万人超が精神科に強制入院させられ、少なくとも1日1万人が法の名のもとに手足や胴体を縛られているという。

 首都圏のとある精神科病院。2017年、複雑な家庭環境に育つ男児が、「学校で落ち着かない」という理由で入院することになった。病院でほかの子とケンカを繰り返した結果、強い抗精神病薬でぐったりと鎮静させ、オムツをはかせ、何もできない状態にされた男児。そんな状況の男児に看護師が食べ物を食べさせたり、オムツを替えてあげたりする――。この病院では、これを「育て直し」と呼ぶ。いたたまれなくなった関係者による内部告発が精神福祉センターや日本精神科看護協会になされているが、本書を読む限り、変わらず営業が続いているようだ。

「処方薬」で人生を踏み外してしまった人もいる。2人の幼子を持つ30代の主婦は、夫との別居や子育て疲れが影響して、うつ状態と不眠に陥った。近所のクリニックへ行くと、精神科医は生活環境の改善に踏み込むことなく、すぐに抗うつ薬のパキシルや睡眠薬を処方された。

 しかし、症状は改善されず、パキシルの1日あたりの服用量を上限の40mgに増量したことをきっかけに、温厚だった彼女の性格がガラリと変わってしまう。化粧が濃くなり、服装はケバケバしく、いつの間にかジェイソンを思わせる奇怪な刺青を入れ、ピアスを10カ所以上開けた。家族への暴言が始まり、外出すると店の商品を手当たり次第に万引き。警察に保護までされてしまう。

 抗うつ薬は一時期的に気分が上がる。けれども、実は不安、焦燥、興奮、パニック発作、不眠、敵意、攻撃性、衝動性、軽躁、躁病といった症状の悪化など重大なリスクがあるが、あまり伝えられていない。

 ほかにも、3カ月の入院による隔離と薬漬けの果てに、退院した月に突然死してしまった自閉症患者もいる。さらに、夫からのDVを受けた主婦が2回の110番通報で「精神錯乱者」のレッテルを貼られ、強制入院された患者も。本人への取材で、入院中にはオムツをはかされ、トイレの時も扉を開けっ放しにされ、看護師にずっと監視されていたなど、屈辱的な現実が生々しく書かれている。

 医師というと、立派な人であり、従わなくてはならない、と思う人もいるかもしれない。けれど、実は精神疾患の多くは今も原因不明で、精神科には病気の科学的な分類も客観的な検査法もないそうだ。iPS細胞を用いた再生医療などを最先端のスーパースポーツカーだとすれば、精神医療は「産業革命前の人力車」だという。

 うつ病患者がどんどん増えている今、そもそも精神医療は本当に患者を治しているのだろうか? 1994年の調査では約200万人だった患者数は倍増している。難しいかもしれないが、この治療は本当に正しいのか? 薬で心は治るのか? と疑ってみることも必要ということが伝わってくる。もしも、家族や友人にうつ病の人がいて、病院に連れていった結果、治るどころか悪化してしまったら、取り返しがつかない。

 もちろん、しっかりと治療の効果を上げている病院もある。しかし、残念ながら、患者をバカにしているような態度の医師や看護師が少なからず存在していることも現状のようだ。多くの人が精神医療の惨状を直視し、「今の精神医療はおかしい」と声を上げてほしい。次の被害者にならないために。そんな強い想いが詰まった1冊だ。

(文=上浦未来)

●さとう・みつのぶ

医療ジャーナリスト。探査ジャーナリズムNGO「ワセダクロニクル」シニアリポーター。神戸新聞社会部で阪神淡路大震災や神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、03年から15年間医療部に在籍。18年1月、フリーに。13年出版の著書『精神医療ダークサイド』(講談社現代新書)は新潮ドキュメント賞最終候補作に選出。

 

 

最終更新:2019/01/06 16:00
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